短編小説

□思惑
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「霰、帰るぞ」



「うん」



放課後、霧崎第一高校から出てきたのは花宮真とその彼女の霰。


最近の花宮には少し悩みがある。


それは、彼女の方が何かと優位に立ち始めているということ。


花宮自身は自覚がないが、周りから見たらツンデレ。


思ってもないことも口に出してしまうのだが(彼女に対して)、それ以上に彼女が凄くなった。


霰は、『あの』花宮が怯えるほど、『超』がつく程の『ドS』になってしまったのだ。



「お前、相変わらず不細工だな」



花宮のツンが発動した。そこで彼女は先程までとの可愛らしい態度は何処へやら。



「あぁ?!テメェに言われたくねぇんだよ、髪むしるぞハゲ!」



その勢いに圧倒され…



「わ、わりぃ…」



と、思わず謝ってしまう。



「分かればいいの」



その後は爽やかなほど笑顔になるのだが、花宮からしてみれば黒い笑顔にしか見えない。



「そういや花宮ー」



「あ?」



と、普段通り返事をした。"してしまった"。



「…おい。返事おかしいだろソレ。なめてんのか?あぁ!?」



「す、すまん……」



「はぁ!?『すまん』じゃなくて、『ごめんなさい』だろ?」



「…っく」



花宮は謝るのが嫌いだ。しかも、ごめんなさいだなんて言いたくない。死んでも言いたくない。


けど花宮は決めていた。


今日こそ、彼氏としての威厳を取り戻すと。



「…っるせーな」



「はぁ?」



花宮はそう言うと、霰の腕を掴み路地裏へと引きずり込む。



「ちょっと!なんなの!?…っつ!」



霰の腕を片手で拘束し、壁に追い詰めて逃げられないようにする。



「…っな、に……」



霰の目に微かに恐怖が見える。


ヤベェ、その顔そそる。


花宮は噛みつくような激しいキスを落とす。



「っはぁ…!花宮、ゃめ…!ぅん!」



一旦、離してまたキス。


霰の目に涙が浮かび、息が切れ、体の力が抜けていく。



唇を離してやると、息をするため肩を上下させる霰。



「普段からこれくらい大人しくしてろよ」



耳元で低く囁いてやると、体がビクッと震えた。



「真、嫌だった…?」



何故か真呼びに戻り、声色が大人しくなったことでドキリとした。



「まぁ、嫌」



「えぇ!真が喜ぶと思ったから、ドS演じてみたのに…」



は…?


何を言ってるんだコイツは。


花宮は腕を解放し霰と向き合う。



「なんで俺が喜ぶと思うんだ?」



花宮は決してドMではない。断じて違う。そんなわけがない。


それは霰自身も分かっていることだろう。



「えと…真が中々デレてくれないって、真と同中だった今吉に相談したの。そしたらね……―――」


『あぁ、アイツはな…実はドMやねん。せやから、苛めてやったら喜んでデレるさかい、やってみ?』



「――――…………って」



「………………」



「……………?」



「色々言いたいことはあるが、俺はドMじゃねぇ!つーか何余計なこと吹き込んでくれてんだ、あの腹黒眼鏡!!!」



花宮は今すぐ今吉を殴りに行こうとその場を去ろうとした。


だが、出来なかった。霰が花宮の服を掴んだからだ。



「なんだよ?」



「元はといえば、真がデレてくれないからいけないんだよ…?私、寂しかった。真は本当に私のこと好きなのかなって」



「そっ…それは……」



何も言えなくなる花宮。



「真がそういう性格なのも知ってる。そこを含めて好きだから。けど、私…まだ言ってもらってない」



「?何を?」



「つきあってから、まだ『好き』って言ってもらってない」



そういえばそうだった。つきあうことになったのは、霰から告白されたから。


最初は暇潰しくらいになるかという軽い気持ちで了承した。けど、つきあっていく内に段々霰に惹かれ、いつの間にか本当に好きになっていた。


だが、実際にはつきあっている訳だし今更言うことでもないと思い、しかも花宮は素直な気持ちを口に出すことができないため、今まで言えなかったのだ。



「もし、嫌いならここできっちり振ってほしいの。そしたらもう、真の前には現れないようにするから」



「嫌い、な、わけねぇ」



「え?」



「嫌いなわけ、ねぇだろ。俺は、嫌いな奴につきあってやる程、お人好しじゃねぇ」



「嫌いじゃなかったら、なに?」



「…っ。す、す…………好き、だ」



「っ〜……!私も!真のこと大好き!!」



霰は花宮に思いっきり抱きつく。


たまには、素直な気持ちを口にするのも悪くないな。


そう思った、花宮だった。




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