短編小説
□本当の気持ち
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「真ちゃーん!」
廊下の先に霰の好きな人である緑間真太郎を見つけ、抱きつきに行く。
「い、いきなりなんなのだよ!」
「そこに真ちゃんがいたから」
「理由になってないのだよ!」
つきあってはいない。ただの片思い。だって、こんなにアピールしてるのに霰が緑間のことを好きだって本人が気づいていない。
彼は、大鈍感男なのだ。
「離れるのだよ!」
「ケチ」
「ケチじゃないのだよ!」
渋々離れると、緑間は「全く…」と言って再び歩き始めた。
「真ちゃん、どこ行くのだよ?」
「真似をするな!……図書館なのだよ」
最近はちゃんと質問に答えてくれるようになったから、進歩はしてると思う。
「私も行くー!」
「来なくていい」
「私が行きたいだけだもーん」
「……勝手にしろ」
「うん、ありがとう♪」
着いていくのも許してもらえるようになった。
まぁ、さすがに図書館となると騒げないけど。
そんなことを思っている内に図書館に到着。
「図書館では騒ぐなよ」
緑間に注意された。
「そんなこと百も承知なのだよ」
「……はぁ」
ため息をつかれたが、そんなことでへこたれてたら緑間を好きになれない。
図書館に足を踏み入れると、めちゃめちゃ静かだ。
こういう雰囲気は苦手な霰なのだが、緑間のために(緑間と一緒にいたくて)頑張って着いていく。
緑間は持っていた本を返却棚に返して、 本がたくさん並んでいる棚に向かって歩き出した。
「真ちゃん、何借りるの?」
小声で聞いた。
「さっき返した本の続きだ」
小説の棚に着き、続きの本を探し始める緑間。
その様子が、本当にかっこよくて…思わず見とれる。
それに気づいた緑間は不思議な顔をして霰を見る。
「なんなのだよ…?」
お目当ての本を見つけたのか、緑間は手に本を持っていた。
「……やっぱり、好き」
霰は、一人言のように呟く。
「?何が?」
「やっぱり、真ちゃんのこと好き。好きなんだよ」
緑間の顔を見つめて、真面目な顔をして告白する霰。
「…っな!」
緑間は顔を真っ赤に染め、口をパクパクさせている。
「な、何を…言って、いるのだよ…」
「真ちゃんのことが好き。大好き。私はもう、真ちゃん以外は好きになれない。真ちゃんが好きなの!」
一度口に出したら、緑間への想いが溢れ出す。
止まらない。緑間が好きだから。
「と、とりあえず…泣くな。どう対応していいか、分からないのだよ…」
緑間に言われて初めて気づいた。
いつの間にか霰は泣いていたのだ。
何故、泣いているのか自分でも分からない。
「ご、ごめ…」
涙を拭こうとしたら、緑間にその腕を取られる。
「え、し…真ちゃん……?」
なんだと思い緑間を見つめると、持っていた本を落とし、空いた手で霰の腰に腕を回す。
そして…
軽く触れるだけのキス。
霰は突然の出来事に目を見開き、目の前に緑間の綺麗な睫毛があった。
ゆっくりと離される唇。
霰はあまりのことに、ただただ呆然とする。
緑間は、自分の手を顔に当て恥ずかしそうに顔を逸らす。耳は真っ赤だ。
「え、あ……な、なんで?」
やっと口に出した言葉は疑問。
そうだ。なんで、緑間は霰にキスを……?
「じ、自分でもよく分からない。ただ、泣いているお前を見たら…体が勝手に動いたのだよ」
照れ隠しなのかなんなのか、緑間は落とした本を拾い上げる。
「それって……。真ちゃんも、私のこと好きってこと?」
勝手に体が動いて、キスするなんて…そうとしか思えない。
霰は嬉しさのあまりそう言うが、当の本人は否定する。
「な、な…ち、違うのだよ!勘違いするなッ!」
と顔を茹で蛸のように染めさせたままそう言われても、説得力がない。
前に誰かから聞いたことある。
緑間は素直になれないのだと。
「うん!真ちゃん大好きだよ!」
思いっきり緑間に抱きつく。
「………出るぞ」
「うん!」
緑間と霰の恋物語は、
まだ始まったばかり。
一方、図書館当番だった黒子は
「緑間くん、意外とやりますね」
と、言いながらキセキのメンバーに一斉メールを送信した。
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