短編小説

□本当の気持ち
1ページ/1ページ




「真ちゃーん!」



廊下の先に霰の好きな人である緑間真太郎を見つけ、抱きつきに行く。



「い、いきなりなんなのだよ!」


「そこに真ちゃんがいたから」



「理由になってないのだよ!」



つきあってはいない。ただの片思い。だって、こんなにアピールしてるのに霰が緑間のことを好きだって本人が気づいていない。


彼は、大鈍感男なのだ。



「離れるのだよ!」



「ケチ」



「ケチじゃないのだよ!」



渋々離れると、緑間は「全く…」と言って再び歩き始めた。



「真ちゃん、どこ行くのだよ?」



「真似をするな!……図書館なのだよ」



最近はちゃんと質問に答えてくれるようになったから、進歩はしてると思う。



「私も行くー!」



「来なくていい」



「私が行きたいだけだもーん」



「……勝手にしろ」



「うん、ありがとう♪」



着いていくのも許してもらえるようになった。


まぁ、さすがに図書館となると騒げないけど。


そんなことを思っている内に図書館に到着。



「図書館では騒ぐなよ」



緑間に注意された。



「そんなこと百も承知なのだよ」



「……はぁ」



ため息をつかれたが、そんなことでへこたれてたら緑間を好きになれない。


図書館に足を踏み入れると、めちゃめちゃ静かだ。


こういう雰囲気は苦手な霰なのだが、緑間のために(緑間と一緒にいたくて)頑張って着いていく。



緑間は持っていた本を返却棚に返して、 本がたくさん並んでいる棚に向かって歩き出した。



「真ちゃん、何借りるの?」



小声で聞いた。



「さっき返した本の続きだ」



小説の棚に着き、続きの本を探し始める緑間。


その様子が、本当にかっこよくて…思わず見とれる。


それに気づいた緑間は不思議な顔をして霰を見る。



「なんなのだよ…?」



お目当ての本を見つけたのか、緑間は手に本を持っていた。



「……やっぱり、好き」



霰は、一人言のように呟く。



「?何が?」



「やっぱり、真ちゃんのこと好き。好きなんだよ」



緑間の顔を見つめて、真面目な顔をして告白する霰。



「…っな!」



緑間は顔を真っ赤に染め、口をパクパクさせている。



「な、何を…言って、いるのだよ…」



「真ちゃんのことが好き。大好き。私はもう、真ちゃん以外は好きになれない。真ちゃんが好きなの!」



一度口に出したら、緑間への想いが溢れ出す。


止まらない。緑間が好きだから。



「と、とりあえず…泣くな。どう対応していいか、分からないのだよ…」



緑間に言われて初めて気づいた。


いつの間にか霰は泣いていたのだ。


何故、泣いているのか自分でも分からない。



「ご、ごめ…」



涙を拭こうとしたら、緑間にその腕を取られる。



「え、し…真ちゃん……?」



なんだと思い緑間を見つめると、持っていた本を落とし、空いた手で霰の腰に腕を回す。



そして…



軽く触れるだけのキス。



霰は突然の出来事に目を見開き、目の前に緑間の綺麗な睫毛があった。


ゆっくりと離される唇。


霰はあまりのことに、ただただ呆然とする。


緑間は、自分の手を顔に当て恥ずかしそうに顔を逸らす。耳は真っ赤だ。



「え、あ……な、なんで?」



やっと口に出した言葉は疑問。


そうだ。なんで、緑間は霰にキスを……?



「じ、自分でもよく分からない。ただ、泣いているお前を見たら…体が勝手に動いたのだよ」



照れ隠しなのかなんなのか、緑間は落とした本を拾い上げる。



「それって……。真ちゃんも、私のこと好きってこと?」



勝手に体が動いて、キスするなんて…そうとしか思えない。


霰は嬉しさのあまりそう言うが、当の本人は否定する。



「な、な…ち、違うのだよ!勘違いするなッ!」



と顔を茹で蛸のように染めさせたままそう言われても、説得力がない。


前に誰かから聞いたことある。


緑間は素直になれないのだと。



「うん!真ちゃん大好きだよ!」



思いっきり緑間に抱きつく。



「………出るぞ」



「うん!」



緑間と霰の恋物語は、
まだ始まったばかり。







一方、図書館当番だった黒子は



「緑間くん、意外とやりますね」



と、言いながらキセキのメンバーに一斉メールを送信した。




.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ