短編小説

□ワンコ狼
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「霰っち〜!!」


朝から抱きついてくる幼馴染みのワンコこと黄瀬涼太


「朝から元気だな」


それをサラッと受け流すアタシ


やんわりそれとなく涼太を引き剥がすと、あからさまに頬を膨らます


「霰っちは朝から冷めすぎッス!!」


プンプンという音が聞こえるみたいに怒り出す


本当、ワンコみたいだな


こっちは好きでもなんでもないのに、女子に嫉妬されてるってのに


呑気ですな


「朝は眠いんだ…。低血圧なめんなよ」


毎朝、登校する時間変えてもついてくるワンコに釘を指す


「だから、俺が抱きついて目覚まさせてあげてるんじゃないッスかぁ〜」


「…………………あ、そ」


「なんッスか今の間!?Σ」


効果は全くと言っていい程ない


てか、慣れすぎてどうでもいい


あ、今朝もワンコが来た〜


くらいにしか思えない


涼太とそんな会話をしつつ、海常高校に向かった















「霰っち!!絶対絶対絶対、待っててッス!」


放課後、さっさと帰ろうとしたら涼太にそう言われた


アタシは帰宅部で涼太はバスケ部だから、いつも帰りはバラバラなんだけど珍しく一緒に帰ろうと言ってきたので待ってやることにした


涼太を見送り、教室で宿題をして待っていたら…


「霰さん、ちょっといいかしら」


女子10人くらいがアタシに話しかけてきた


しかもあんまり仲良くない―むしろ嫌いなタイプの女子たちだ


嫌だと言っても無駄だろうなと思い


「いいが…。何の用だ?」


宿題から目を逸らし、話しかけてきた女子に目を向ける


「アンタ、随分黄瀬くんと仲良いみたいね」


超嫌味っぽく言われる


やっぱ端からみたら、そう見えるのか


全然そんなつもりはないのだが


そう思っていたので何も口に出さなかったら、黙りを決め込んでいると思われたのだろう


「黙ってないで何とか言えよ!!」


思いっきり肩を押され、椅子から転げ落ちる


「いっ…てぇ」


いったいな


きっと涼太のファンクラブの人達だろうな


ったく、アンタらが思うような関係じゃないっつーのに


立ち上がろうと足に力をいれると


カシャという音がすぐ近くで聞こえ、それと同時に髪と肩が濡れる


よく見ると、そこでは卵が割れていた


生卵の臭いに顔を歪めると、女子たちが一斉に笑い出す


アタシは、髪に付いた卵を手で取りティッシュにくるむ


そして軽くティッシュで拭く


すると


「拭き取ってんじゃねぇよ!!」


罵声とともに足で蹴られる


なんか、涼太ってこんな奴らに好かれてるんだなと思うと可哀想になってくる


アタシが表情を一切変えないのが癪に障ったのか、胸ぐらを掴まれて立たされる


「黄瀬くんに二度と近づくな。テメェみたいな不細工が、黄瀬くんに相手にされると思ってんの?」


「調子乗ってんじゃねぇよ!」


などと罵られる


あ〜あ、相手にしなきゃ良かった


時間の無駄じゃん


思わずハァとため息をつく


すると、アタシの胸ぐらを掴んでいる女子の顔が怒りに満ちていくのが分かった


掴んでない方の腕が少し上がったのを見て、あ…殴られるなと思って覚悟を決めた


「コイツ…!!」


腕が降りてくるのを見て目を閉じる


パシッという音は聞こえたものの衝撃がこない


恐る恐る目を開けると、女子が横を向いて驚いた顔をしている


「何やってんッスか?」


この声は…!!


女子の目線の先に視線を移すと、涼太がいた


「き…黄瀬くん……」


周りの女子たちも一斉にオロオロし始める


「こんな大勢で一人の女の子に、何してたんだ?」


〜ッス口調が抜けた涼太に怯えるみんな


あの口調が抜けるときは、真剣な時かマジギレしてるときのどちらかだ


「そ、それは…」


急に口ごもると同時にアタシの胸ぐらを離す


さっきまでの威勢はどこいった貴様ら


「今度、霰に手だしたら許さねぇから」


涼太はそう言って女子たちを思いっきり睨むと、腕を離す


その瞬間を待っていたように全員逃げる


助かった


殴り返さなくて済んだ←そっち!?


ふと力が抜けてその場に座り込む


「だ、大丈夫ッスか?」


この時には狼涼太からワンコ涼太に戻っていた


「お、おう。ありがとう、助かった…」


素直にお礼をいう


「……そんなこと、ないッスよ」


あれ?いつもの涼太らしくないなと思ったが、浮かんできた疑問を口にする


「そういや何で涼太がここに?部活はどうした??」


そう聞くと


「忘れ物したんで取りに来たンス。そしたら、霰が絡まれてて…」


途端に俯く涼太


「絡まれた原因って俺ッスよね。本当、ごめんなさい」


今にも泣きそうな涼太


「いや、涼太のせいじゃない。だから気にするな」


そんな涼太を見ていたら自然と言葉が溢れてきた


「卵…ぶつけられたンスか?」


アタシの肩を見ていう


「おう。髪と肩。後、足蹴り」


アタシの肩の卵を拭きながら、ごめんッスを繰り返す涼太


「俺、ダメッスね。好きな女の子を傷つけるなんて…」


拭き終わったら涼太が呟く


「え…?」


好きな女の子??


聞き返すと涼太が、ヤバいという顔をする


けど、そうなったのはほんの一瞬ですぐ真剣な顔してアタシを見つめる


ドキッ


いつになく真剣な表情にトキめく


「霰…」


初めて涼太に呼び捨てにされる


またドキッとする


「俺、霰のこと好きッス。………ずっと昔から大好きなンス」


人生初の告白に心臓がバクバクする


「まだまだ霰にとっては頼りない奴かもしれないし、ウザイ奴だと思うンスけど…付き合ってほしいッス」


涼太がそんな風に思ってるなんて全然知らなかった


けど、アタシは…と思って口を開く


「そんなことない…」


自分と思ってることと真反対のことを口に出すアタシ


自分でもよく分からないが、次々と喋る


「頼りなくもウザくもない。むしろ、頼れるし優しいしカッコいいし可愛いし…」


涼太にとっても予想外なんだろう


目も口も開いている


アタシ自信も驚いている


「アタシも…ずっと………。涼太が好きだった…」


あぁ、アタシ涼太のこと好きだったんだ


だから、いつも涼太を目で追ってたんだ


だから、涼太と同じ高校に行ったんだ


だから、冷たくできなかったんだ


涼太は中学に行って、モデルも始めて、バスケ界ではキセキの世代なんて呼ばれて…


どこか遠い存在になってたような気がしてて


アタシなんかが涼太みたいなすごい人を好きになっちゃいけないって、心のどこかで思ってて


自分の気持ちを知らない内に封じ込めてたんだ


けど涼太は昔と全然変わってなくて、モデルになってもバスケをやっても変わらず接してくれて


こうしてアタシのこと好きだって言ってくれた


凄く嬉しくて涙が溢れる


「霰っち!?」


驚く涼太


そして、涼太に思いっきり抱きつき狂ったように好きと呟くアタシ


涼太が頭を撫でてくれて、アタシの顔を見つめる


「俺、すっげー嬉しいッス。霰は嬉しいッスか?」


その言葉に頷く


「だったら泣かないで笑っててほしいッス。泣き顔も可愛いけど、笑った顔はもっと可愛いッスから」


ニコッと微笑む涼太にアタシもニコッと微笑み返す


「分かった」


と言いながら


「ってことで今日から霰は俺のものッス〜!」


ギュッと抱き締めてくる涼太


今朝みたいに押し返すこともなくそれを受け入れるアタシ


すると、涼太が耳元で囁いてきた


その言葉にかぁと顔が熱くなり


「まだダメだ…!!」


と言う


「え〜何でッスかぁ?」


はぶてる涼太


「か、帰ったらいいが、学校ではするな!」


顔を逸らしながら言うと


「了解ッス〜!!」


と言ってまた抱き締められた




涼太が言った言葉……





『ここで、キスしてもいい?』





<おまけ>
「そういや、なんで今日は一緒に帰ろうとしたんだ?」


「今日、マジバで期間限定のドーナツが発売するンスよ!!けど、男一人で行くのは恥ずかしくって…」


「乙女か」


「だって食べたいンスよ〜!」


「……しょーがないから、付き合ったげる」


「本当ッスか!?マジで大好きッス〜!!!!」


「うわっ!?抱きついてくるな!!」


「…霰っちって、ツンデレ?」


「ツンデレ言うなァァァァァ」


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