短編小説

□熱
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「ゴホッゴホッ」


朝からずっと咳が止まらない私


体も火照ってる気がする


だけど、今日は部活


誠凛高校バスケ部マネージャーの私は、みんなにスポーツドリンク等を渡す係のため休めない


今は、紅白戦をしているのでベンチに座っている


私が応援しているのは、彼氏の黒子テツヤがいる白チーム


テツヤはかなり影が薄い


ずっとその場にいるのに、いつからそこに!?と言われるくらいだ


「テツヤー!!がんば…ゲホッゲホッ」


大きい声を出したら咳き込んでしまった


あ、ヤバい


頭がボーッとしてきた


テツヤはそんな私をチラ見して、すいませんと手を挙げる


「ん?どうしたの、黒子くん」


監督の相田リコが話しかける


「休憩させてください、疲れました」


テツヤが発した一言に一同騒然


無論、私も咳き込みながら驚いていた


いくら体力がないとはいえ、試合中に休憩を入れろだなんて今まで一度も言わなかったからだ


「ダメに決まって―いいわ。そうしましょう」


否定の言葉を飲み込み、了承の言葉を伝えるリコ先輩


なんでだろう


少し咳が落ち着き、フゥと息を吐く


「霰さん、大丈夫ですか?」


テツヤが体を屈めて私の顔を覗きこんでくる


可愛いこの小動物!


…じゃなくて


「うん、大丈夫だ…ゴホッゲホッ」


咳が出るため、口を押さえて体を丸める


「霰さん!!」


テツヤが隣に座り、背中を擦ってくれる


しばらくして咳が落ち着き


「ご、ごめん…。大丈夫だから」


テツヤに心配させないために無理に笑顔を作ると、何故かムスッとしたテツヤ


なんだろう


そう思っていたら


「…そんなに頼りないですか、僕」


「へ?」


苛立ちを感じる小さい声で紡ぐ


頼りないって…??


どういうこと?


次の瞬間、テツヤの顔が私の視界を支配し額同士がコツッと音をたてる


そして、ゆっくりと離れていく


「熱…あるじゃないですか。完璧に風邪ですよ」


真剣な眼差しが私の瞳を捉える


「そ、そうなんだ。通りでしんどいと……」


本当に気づかなかった私


正直な感想を述べる


「霰さん、失礼します」


と、いきなり言うテツヤの声と共に体に浮遊感を感じる


と同時に視界に写ることない天井と、下から見上げるテツヤの顔が見える


ここで、私はテツヤにお姫様抱っこされていると気づく


「ちょ…テツヤ?」


テツヤを下から見つめる


すると、腕がプルプルし始めた


「あの、重いから…ってかなんで?」


疑問を口にする


「熱があるのに、体育館にいてはいけません。保健室に連れていきます」


テツヤにこう断言されてしまった


「テツヤ…。ありがと」


優しいね、テツヤは


だけど…


「いや、けどさ…さっきも言ったけど私重いし。腕プルプルしてるじゃん。自分で歩くよ?」


力があんまりないテツヤが人一人持ち上げるのが、大変だと予想してそう言う


テツヤ自身は問題ないという顔をしているが


「重くありません」


そして、歩き出したテツヤ


「いや、けど―」


「大丈夫です」


「やっぱ重いで―」


「軽いです」


「無理しな―」


「大丈夫です」


私が言い終わる前に返事をするテツヤ


こうなると、テツヤは意地になって引かないだろう


私は任せるか…と思い口を閉じる


「やっぱり、頼りないですか?」


真っ直ぐ前を見据えたまま、テツヤが先程と同じことを言う


「え??」


「僕は、影薄いし特徴はあまりないし特別バスケが出来るわけでも勉強が出来るわけでもありません」


自分を否定し始めるテツヤ


そんなことない


そんなことないよと言いたいのに、何故か言葉が出ない


「だけど……」


「僕は、この世界の誰よりも…霰さんのことが好きです。これだけは、自信を持って言えます」


テツヤ…


「だから、もっと僕を頼ってください」


視線がバチッと合う


いつも可愛いテツヤが







とってもかっこよく見えた









「テツヤ…。私も世界で一番テツヤのこと好き!これからはどんどん頼る!!」


今度は心からの笑顔を見せる


慰めや誤魔化しの笑顔ではなく…


途端、顔が真っ赤になるテツヤ


「あら?テツヤも熱??」


ニヤッと笑うと


「そうですね。僕も熱みたいです」


テツヤがそう答える


あれ?予想してたのと違う


そして、いつのまにか保健室に着いていた


ベッドまで運んで私を座らせる


テツヤがしゃがみ、私の頭を撫でる


「霰さんが可愛すぎるから、熱が出たんですよ?」


そんなテツヤに顔が真っ赤になる


「部活終わったら迎えにくるんで、それまで寝ててください」


突然、立ち上がりそう言うテツヤ


「あ…」


寂しくなり、テツヤのユニフォームの裾を掴む


分かってる


戻らないといけないのは分かってるけど…手が離せない


そんな私をなだめるように


「少しの間ですから、イイコにして待っていてくださいね」


私に甘いキスを落とした

.

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