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□#甘い取引。
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職棟までの道を無言で歩く。
未だ捕まれたままの手首は、じくじくと痛みを訴え始めていた。



「……手、痛いんだが。」

「あぁ、そう。何、恋人繋ぎのがいいの。」

「いいわけねーだろ!」



さらりとかわす堀川に、離してくれる気など全くないことを悟った俺は、動揺を払うように別の話題を振ることにした。



「……何でお前が、」



立ち止まり振り返った堀川の瞳は何時もの色ではなく、金色に染まっていて俺は開いた口を閉じる。
一瞬、恐怖に呑まれそうになる。
が、それはあまりにも癪だった。俺はその目を睨むように見つめ返す。



「………やっぱり良いな、その目。本当にお前は面白い。」

「……っ人をからかうな。」

「あーはいはい。で?俺が、何?」



くすくすと笑いながら、堀川は楽しそうな声で俺を見つめた。その目は先程の金色ではなく、何時もの色に戻っていて何故か少しだけ、安心した。



「……お前が俺を送るなんてな。」

「桃子が『神無のお兄さんが体調悪そうだから送ってやれ』ってさ。あの女、この俺に『アンタどうせ暇してるんでしょ』だって。本当、五月蝿い女。……暇じゃないが、お前が弱ってるって聞いて面白そうだったから乗ってやったんだ。」

「いや乗んなよ。……土佐塚が…。」



深くため息をついた。
堀川の話を聞いていても、彼女は普段からこうなのだろう。
けれど、彼奴なりに心配してくれたのだろうと思うと、少しばかり嬉しいと感じてしまう。
引き結んだ口元も、自然に綻ぶ。



「……そういえば、今日はバレンタインだったな。」

「…………そーだな。」

「何だその嫌そうな顔。にしても、甘いのが苦手で体調崩すなんて、変わったやつだな。」

「!な…何でそれ…、」

「桃子。」



土佐塚明日本当覚えてろ。
一番知られたくなかった相手にまで苦手なものを知られてしまい、俺は小さく項垂れた。

−−俺は気付けなかった。この時、堀川の口元に笑みが浮かんでいたことに。







「……じゃあ、誰からも貰ってないんだな?」

「……神無以外。」

「妹からってのは、カウントなしだ。」

「…………なら、な−−−、」



ない、と言おうとして、その言葉は口に異物を投入されたことによって遮られてしまった。
ころり、と舌で転がしてみれば、控えめな甘さが口内に広がって−−。



「うまいだろ?」

「……何の真似だ。」

「俺からのささやかな贈り物、ってやつだ。」

「……バレンタイン?」

「そういうことだ、来月のお返し、楽しみにしててやる。……俺を退屈させるなよ?」



堀川は楽しそうに笑んで、俺の手を引いて職棟へと続く道を歩き始めた。






(わかってると思うが、俺を楽しませられなければどうなるか……お仕置きだからな。)


(そう言った堀川の表情は見えなかった。)


(が、捕まれていた手首はいつの間にか解かれ、


いつの間にか手と手が、重なっていて。)



(歩く速度さえも、ゆっくりになっていて。)








(まるで、俺を本気で労ってくれているような、そんな気がした。)






END.




ハッピーバレンタイン♪
因みに響さんがあげたのは紅茶の飴。(完全に管理人の好み。)

02.07
さとち。
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