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□#01夢の中の声は。
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意識が浮上し、重たい瞼を持ち上げた。
最初に感じたことは、身体の節々が悲鳴をあげるように痛みを訴えまくっていたことだった。
「……ふぁ、っい……!」
口を開けば激痛が走り、鉄の味が口の中に広がってくる。
どうやら、口の中を深く切っていたらしい。
−−−欠伸すら満足にできないのか。
口内が痛むため、悪態は心の中で吐き捨ててのろのろと体を起こし服を脱ぎ捨てる。
痛みはまだ残っているものの、傷口は何時ものように塞がり「血はもう止まっている」らしかった。
口内は深すぎて、完治まではしなかったのだろう。
とにもかくにも、相変わらず気味の悪い身体だ。
俺は何時もの質素な部屋の中で、ベッドで眠らず机に突っ伏して眠っていたらしかった。
らしかった、と曖昧な言葉なのは昨夜のことをあまりよく覚えていないせいだ。
どうせ何時ものことだと、更々興味がないため思い出そうとも思わないが。
ふと、微かに聞き慣れたバイク音が耳に入った。
真新しいワイシャツを素早く羽織り、飛び出すように部屋を出る。ぎしりと身体が痛みで悲鳴を上げたが、構わず歩を進めた。
向かっていた先は、玄関口だ。
玄関口に着くと、郵便屋がバイクで走り去っていくところだった。
俺はその背を見送り、そしてポスト受けを開く。
中には封筒と葉書が何通か入っていた。
それを手にとり、順に宛先に目を通していく。
(…………ない、か。)
殆どが此処の管理人に宛てたものばかりで、俺の目当てのものは見当たらない。
息を吐き出し、郵便物をポストの中に戻し元来た道を引き返す。
俺が家を出てからというもの、妹の神無は毎日俺宛に手紙を書いて寄越してきた。
内容は、今日はこんなことがあったんだ見たんだと、そういう些細なものばかり。
だが、それに目を通している時は俺にとってかけがえのない幸せを感じた時だった。
息が詰まるような【施設】での生活。此処には何の価値もなく、無駄な時間だけが過ぎていくばかりだった。
だから、単純に嬉しかった。
神無は、俺を一人の兄として、人として見てくれていたのだから。
十年も続いていたその手紙もここ数日と、突然途絶えてしまっていた。
体調でも崩してしまったのかと考えた。
神無は食も細く、体力もない。風邪を拗らせた……としても納得ができる。
しかし、何かが引っ掛かる。
今まで一度もこんなことはなかったのだから。
もし俺が彼奴の立場だったとしたらどうする。
【心配などかけないように、偽ってでも手紙を出す】のではないか。
−−−彼奴の身に、何か起こったんじゃないのか?
(……夢……、何時からだ?)
ふと、今朝見た夢を思い出した。
断片的なもので、あまりはっきりとは覚えていない夢。けれど、神無が俺を呼んでいたことだけは間違いない。
数日前から、毎日のように見ていた−−……
「……っ!!」
俺は走っていた。
さして大きくもない【施設】を飛び出し、森を下る。
俺の、妹に会いに行くために。
END.
01.15
さとち。