幸せの定理

□託宣とは
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人の焼ける匂いがする。耳に残る仲間たちの泣き叫ぶ声。殺された者達の怨念が私を暗闇に堕とすように体に巻きついてくる。許すな、恨め、呪え。腕を掴み、足を捕らえ、皮膚を突き破るその痛みに悲鳴が上がる。
ーーー許すな、恨め、呪え。
喉が詰まる苦しみにもがき、救いの手を差し伸べても掴むのは亡者の誘いだけ。


「う、…あっ……!」


闇雲に掴んだ何かが勢いよく私を引っ張る。ただ分かるのは引き上げたそれが私にとって決して救いとは限らないということだけだった。



▼▼▼


頭がひんやりと冷たい。ぼやける視界をゆっくりと開けていくと、見知らぬ天井が見えた。


「起きたか」


体を起こそうにも倦怠感が全身を襲い、上手くいかない。しょうがなく首だけ声のかけられた方を向くと、視界に捕らえたその人間に何故だか涙が零れた。


「うなされていたな。平気か?」

「………」

「熱は下がったか…何か食べた方がいい」


目の前に置かれた食事に食欲が全く湧かない。食べないのかと聞かれて首を振り答える。何も食べたくない。何もしたくない。何も、何も考えたくない。


「……泣くな」


苦しくて、苦しくて。涙を掬うその手も、気遣うようなその声も。意味が分からない。私の全てを奪ったのは目の前にいるあなただというのに。

ただ下を向き何も話さない私に男は静かに語りかけた。
三日間私は眠り続けていたらしい。熱が出ていたわけではない。呼びかけにも応じず、目を覚ますのを拒むように頑なに目を開けなかったと聞いた。
夢の中の情景が瞼の裏に鮮明に浮かぶ。いや、あれは夢ではない。現実だ。私たち一族の怨を忘れてはいけない。


「……あなたの、名前はなんですか」


問う。


「…クロロだ」


この男が全ての災厄。全てを壊した。クロロ。この名を胸に刻みつけ、印を付ける。


「あなたは不幸になる」



( 託宣とは )

我が一族に幸あらんことを。


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