源氏

□独り伝ふる祈りの言の葉
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独り自分が壊しつくした戦場に和音は佇んでいた。

当に生きているものは和音以外はいない。

赦せとも憎めとも和音は言わない。

ただ背負う殺した命を罪を積む。

そんな和音の傍に近づいて来た女性がいた。

和音の愛しい人。人の名は北条政子。

神の名は茶吉尼天。

彼女は和音の横に寄り添うた。


「愛しい子お前は後悔しているの?」


其の言の葉に和音ははっきりと返した。


「いいえ」

「貴女様の糧になれた」

「其れは幸福なことです」

「其れならば何故お前は泣いているのかしら?」


涙など流していないと和音は知っていた。

ならばどうしてそう思い首を傾げた。


「お前の心が泣いているのよ」

「何が哀しいの?」


其の問いに答えるすべを和音は持たなかった。

本当に分からないのだから。

だけれどもしかしたらそう思い言の葉を紡いだ。


「悼んでいたのかもしれません」

「私がいた世は戦争など身近な場所にはなくとても遠い」

「だけれど今はこんなにも近い」

「人の死を悼み悲しんでいたそう思います」


愛しい人は何が可笑しいのかわからないけれどくすくすと笑った。

そしてあまやかな声音で歌うように囁く。


「おかしな子」

「でもお前は望んだのでしょう?」

「私の傍らにあることを」

「本当におかしな子」


くすくすと愛しい人は笑う。

其れが嬉しくて微笑み返す。

そして二人の影は共に連れ添うように闇夜に消えた。

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