源氏
□伝うは愛しの言の葉
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「散人」
呼ぶ声がする。其の声をたよりに進み傍へとはせ参じると
愛しい人の傍には倒れ伏す亡骸があった。
愛しい人は散人に気づくと微笑み
其の神としての姿をあらわにした。
「散人」
声が何重にも重なったかのように響いていく。
「お方様」
「其処で待っていてくれるかしら」
「これを喰らったら桜を見にいきたいの」
「よろしくて?」
其の言の葉に頷くことで返した。
そして散人の愛する神は其れを喰らった。
喰らわれる其れが羨ましかった。
自分も叶うならこの身を捧げたかった。
俯いていると愛しい人は散人に囁いた。
「妬いているのかしら?」
「心配しなくてもお前を喰らう日は来るわ」
「今は待っているの実が熟すのを」
「お前は私のものなのですから」
其の言の葉に散人は微笑んだ。
嬉しくて早くその日が来ればいい。
貴女と一つに溶けるその日が
自分にもあることがたまらなく嬉しかった。