源氏

□貴女を愛しているから
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其れに気づいたのは偶然だった。

気づいたらその行動は早かった。


「お方様!」


振り向く愛しい人の背にその身を滑らせる。

ザシュ

キンッ

体を切り裂かれながらその不届きものを仕留めた。

まだ生きているようで止めをさそうとして

ふわり温もりに包まれた。

悲しそうな声が響く。


「散人」


あえやかな声音が心を打つ。


「私が死なないとお前は分かっているはずなのに」

「なのにどうして?」


決まっている。死なないとわかっていた。

其れでも愛しい女が傷つくのが耐えられなかった。

愛しいからこそ無事でいてほしい。そう願うから…。

ポタポタと血が地面に落ちて染みていく。

其れに構うことなく告げる。祈りを籠めて。


「たとえお方様が死なないとわかっていても」

「私は貴女様を庇います」

「傷ついてほしくないから」

「無事でいてほしいから」


微笑み告げる。其の言の葉に愛しい人は泣きそうに微笑んだ。


「本当にばかな子」

「でもどうしてかしら?」

「お前のことがとても愛しいわ」


愛しい人は散人を抱きしめた其の温もりに散人は笑みを深めた。

たとえ貴女が何を犠牲にしても

貴女が何者であろうとも愛しています。

歌うようにその言の葉を告げたかった。

だけれど今は心に秘めて貴女に微笑みかける。

貴女の幸せは私が護るから…。

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