源氏

□愛しい貴女のためならば
1ページ/1ページ



「散人」


そうあまやかに散人の主は自身の名を呼ぶ。

すぐさま傍にはせ参じればその女性は満足そうに微笑み

艶を感じさせる動きで散人の頭に手を置いた。

そして残酷な言の葉を告げるのだ。


「散人私はおなかがすいてしまったわ」

「だからお前の魂を下さらないかしら?」


散人はその言の葉に微笑み告げる。


「貴女様のためになれるのならば喜んで」

「どうか喰らってください」


女性は満足そうにまた微笑んだ。

だけれど散人を喰らうことはしなかった。

そして可笑しそうにくすくすと笑うと告げる。


「お前は本当に私が好きなのね」

「何だか面はゆいわ」

「愛しいお前を喰らうなどあるはずがないのに」


其の言の葉に散人は微笑むと恍惚とした眼差しのまま告げた。


「もったいなきお言葉です」

「だけれど貴女様が渇いたその時は」

「どうか喰らってください」


其の言の葉に女性はいいや茶吉尼天はまた可笑しそうに笑った。

そして歌うように言の葉を紡ぐ。


「ええその時は一つになりましょう」

「独りは怖いもの…」


悲しそうに最後に紡がれた言の葉に散人は沈黙を守った。

そして悲しそうに散人は顔を歪ませた。

この人は護らなければならない人で

そして何より散人の愛しい人なのだ。

手にはいることのない唯一の人。

たとえ人ではなく神であろうとも愛し愛しとこの心は告げる。

傍にいられるだけで幸福で満たされる。

散人は微笑んできた茶吉尼天に微笑み返した。

喰らわれる日を待ち望みながら…。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ