小説

□今共にいるときは
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漆黒の闇夜にこの身を潜ませて

フルートが奏でるノクターンを二人で踊る。


漆黒のベール靡かせて踊り続ける

この心が擦り切れるまで。


心に仮面をつけて真実に偽りを紛らせて

私は今日も仮面をかぶる

彼方と二人共にいるために。


だけれど何時かこのときも終わるときが来る。

だけれど今はこの一時に溺れさせて


彼方と二人共にあるときの夢を。


詩を諳んじる。即興の詩は2人の関係を表す様に別れの気配を漂わせるモノだった。


「崩れ落ちた後に何が遺らんや」

彼女はクスクスと微笑みながら彼に告げた。

返答を望まれたのか望まれていないのか少し悩んだのちに答える。


「何も。砂の城であるのなら風が全てを攫うのでしょう」

「そうでなくとも後は遺れども、虚しきモノが存在するのみに成り果てる」


答えた彼は不機嫌さを隠しもせずに正面から彼女を抱きしめる。

強く強くまるで蛇が自らの身で獲物を絞め殺すかのような力で。

それに彼女は微笑みを止め眉を寄せ薄く笑むと彼の首筋に強く噛みつく。

ぴくりと彼は微かに身体を動かすと抱きしめていた腕の力を緩める。

それに彼女は満足そうにし噛みついた箇所に再度唇を寄せ口付けたのち舌で労わる様に舐めた。

彼は抵抗せずに、その行為を受け入れながら彼女に囁く。


「貴女も酷い人ですね。あんな詩を詠んだくせに」

「主人に飼い狗が反抗する事をお許しにはならない」

「ええ。だって貴方は私の可愛い狗だもの」

「長く飼うためには躾は大事でしょう?」


その言の葉に彼は双眸に歓喜の色を僅かに滲ませた。

そして、喜びと愛おしさを籠めた声音で彼女に告げる。


「ええ。私は貴女の狗です。忠実な飼い狗で居たいのですよ」

「ですからどうか刃向わせないでください」

「愛しい主人が他のモノを見る事すら私は厭うのですから」


その言葉に彼女の眸は甘い熱を帯びていく。

喜色を隠そうともせずに毒を孕んだ囁きを彼に零す。


「そう。もし私が他を見たらどうなるのかしら?」

「殺してさしあげますよ。そうすれば貴女は何処にもいけないのですから」


冷たい囁きは紛れもなく甘い睦言だった。

それに彼女は彼の唇を塞ぐことで応えた。

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