小説
□伝うは嘆きの言の葉
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どうして告げることが出来ただろうか?
傷つけるとわかっていてとうに弱り果てた愛しい人に
更に傷つける言の葉を。
愛しいから告げることはできない。
たとえ其れで死ぬとしても告げることはできないのだ…。
今こんなにもこの人は苦しみを抱えているから。
更に重荷を背負わせることなどできない。
ほろりほろりと頬を涙が伝う。
そしてあの人は自分を見ていない。
他の誰かをその心に住まわせている。
どうかその人と幸せになって。
言の葉がその唇から零れ落ちる。
嘆きの言の葉が…。
「愛しています」
「だからこそこの手を離すのです」
「祈っています」
「彼方様の幸福を」
切に祈るこの身をきるような悲しみや痛みには見ないふりをして。
涙はもう乾いていた。
その影は森の中へと溶け消えた。