小説

□落つるるは愛しの言の葉
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どうして君でなければならなかったのだろう?

そうでなければこんな想いを知らずにすんだのに…。

君を殺せるものならとうに殺しているのに

どうしてこの手はこんなにも震えるのだろうか?

殺す相手が君になっただけなのに。

君は微笑み目を閉じる。全てを受け入れると其の行いが何よりも雄弁に語っていた。

僕は耐えきることが出来ずに其の眦から涙を流した。


「どうして君なのだろう?」

「全ては決まっていたことなのです」

「どうか貴方様は務めを果たされませ」


其の言の葉に何も言うことが出来なかった。

ほろりほろりと絶えることなく涙は流れて。

僕はやはりうそつきだ。今はこんなにも君を殺したいのだから…。

泣きたいのか笑いたいのか其れすらも分からぬまま愛しい命を僕は奪った。

役目など捨てたかった。でも其れすらも選べずにここまで来てしまった。


「僕は君を愛していたんだ」

「失いたくなかったのに」

「どうしてっ!」


其の先を紡ぐことはできなかった。

どれほどに思おうと努めてもやはり出会わなければ良かったなんて想えないのだから。


「愛し愛しと僕が紡いだら君は笑うかな?」

「でも君を殺すのが僕でよかった」

「そうすれば最後の瞬間だけでも」

「君は僕だけのものだから」


其の影はやがて闇夜に溶け消えた。

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