天雪

□一欠けらといえど
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ゆきは拗ねていた。そんなゆきを天海は愛しそうに眺めている。


「ゆきどうかもう赦してください」


あまい声に頷きそうになる。だけれど其の思いを振り払い天海を見ないようにした。


「愛しい子君を誰にも見せたくなかったのですよ」

「天海だけど…」

「神子愛しいゆき」


そう言って微笑まれれば抱きしめようとする腕に

囚われることをゆきは自分に赦してしまった。

そして今日も二人で映画を見ていた。

今日の映画は「人魚姫」だった。

小さいころに読み聞かせてもらった其の物語に引き込まれ泣いたものだ。

映画ででると知ってみるのを楽しみにしていた。

幻想的な海の世界にゆきは引き込まれた。

そこで生きる生き物たちもとても美しくて

でも何より美しかったのは人魚姫の恋の結末だった。

人魚姫は天に昇ることを赦され光となって消えた。

泣いていたのに最後は笑ってしまった。

天海は見終わったゆきを其の腕に閉じ込めた。


「天海?」

「ゆき愛しい子」

「どうか私以外を見ないで」

「あまみっ」


唇を強引に奪われた。

性急な口付け。だけれど其れに反して其のkissはとても優しく甘かった。

体から力が抜けていく。天海にゆきはもたれかかった。

銀の糸が二人を繋ぐ。天海の濡れた唇が艶めかしかった。


「ゆき」

「天海」

「そう私だけを貴女は見ていて」

「一欠けらといえど誰にも貴女を渡すことは出来ないのですから」


ゆきは天海を抱きしめかえした。

独りにしない。そう伝えるために。

天海を私の方が放せないのだから…。

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