天雪

□もう一度奇跡を
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天海は時の狭間を彷徨いながらあの時のことを思い出していた。

清らかな御手により全てから解き放たれたあの一瞬に

還りゆく己に見せた愛しい子の泣き顔が頭からはなれなかった。

あの一瞬のために自分は闇を知ったのだとそう思える。

その時鈴の音が鳴り響いた。

シャンシャンシャラン

この音は白龍の…。怪訝に思いつつ狭間を眺めていると

声が聞こえる。愛しい子の悲痛なまでの己を呼ぶ声が…。


「神子?愛しい子君なのですか?」


声を頼りに狭間を渡る。其の先に目にしたのは

今まさに最後の命のかけらを使わんとする其の姿。

そして瞳は閉じられていく。

今瞳を閉ざせば消えるそう一瞬のうちに判断して其の体を抱き寄せる。


「愛しい子眠らないでどうか私を見て」

「あまみ」

「ええ私ですよ」

「愛しい子君の其の眩いまでの輝きが消えなくてよかった」

「あまみ天海!」


縋りついてくる君が何よりも愛しくてこんなにも温かい。

本当によかった。君の命が失われなくてほんとうに。安堵が胸をつく。


「天海貴方を探していたの」

「愛しい子本当に私を?」

「本当だよ貴方を救いたくて来てしまったの」

「こんなところにまで命を懸けてまで?どうしてですか?ゆき」

「貴方をもう独りにしたくなかったの」

「ずっと一緒だよって伝えたくて」


もう抑えることが出来なかった。

愛しい愛しいこの存在を求めてやまない。

其の衝動のまま強く抱きしめる。

ゆきはあがらわなかった。

そして抱きしめかえした。

天海は気づかなかった。

嬉しさのあまり自身が涙しているなど…。


「天海泣いてるの?」

「愛しい子?」

「よしよしもう怖くないよ」


ゆきは涙を流す天海の頭を撫でた。

天海は困惑していた。

だけれどゆきは天海を撫で続けた。


「ゆき君の世界に行けたらよかったのに」

「天海は私の世界に来たいの?」

「君は望んでくれますか?」

「私は天海とずっと一緒にいたい」

「愛しい子私の神子」



もう一度奇跡が叶うならずっと共にそう願うから。

二つの影は寄り添いあうように一つに溶けた。

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