天雪

□この温もりを
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天海が現代に来てから半年が経っていた。

其の間にゆきは天海と同じものになることを選んでいた。

天海はゆきの傍から片時も離れようとはしなかった。

ゆきは其のことが嬉しかった。

こんなにも愛されていると知ることが出来て幸福だった。

今も天海はゆきの傍にいて一緒に映画を見ていた。

映画のタイトルは「オルフェウスとエウリディケ」というものだった。

ギリシャ神話のお話だった。

結末がとても気になって食い入るように見つめていた。

そして訪れた結末に哀しみが溢れた。

ほろりと涙を流していることにすらゆきは気づかなかった。

そんなゆきに天海は微笑み返しながら

かそけき声で睦言を囁くようにあまく告げた。


「愛しい子どうか泣かないで」

「忘れてしまったのですか?」

「私たちはもう別たれることはないのですよ」

「だからどうか泣かないで」


ゆきは其の声ではじめて泣いているのだと気づいた。

天海はそんなゆきの流れる涙を愛おしそうに舐めとった。

頬を赤くしながらゆきは天海を抱きしめた。


「愛しい子?」


不思議そうにする天海を見ないふりをして

強く強く抱きしめる縋りついているのがばれない様に。

天海は囁いた。おかしそうに笑いながら。


「おかしな子どうしたのですか?」

「心配しなくとも私は貴女を放すことなどないのですよ」


其の声にゆきは何度も頷きかえした。

この温もりがあれば生きていける。

この温もりをもう放すことは出来ない。

愛しい愛しいそう泣くように強く抱きしめた。

そして天海も抱きしめかえしてきたことに

ゆきはそっと微笑んだ。この幸福がずっと続くことを祈り願いながら

そっと目を閉じ愛しい人の温もりに酔いしれる。

貴方を愛しています。そう心の中で紡ぎ二人の影は一つとなった。

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