鯖煮
□ノルンは微笑む
1ページ/1ページ
うっすらと志貴は微笑む。ヤマトと共につくりあげた実力主義の世界でただ微笑む。
自分がヤマトの心臓を握っているのだと知りながら微笑みを絶やさぬようにうすく微笑む。
微笑みは志貴にとって仮面だった。本当の自分を隠してくれるペルソナ。それを外すことが志貴にはできなかった。
ただ一人。ダイチすら気づかなかったその事実にヤマトが気づいた。
それが志貴の世界を変えた。モノクロだった世界は色を取り戻し様々な感情を志貴に与えた。
光を見たとそう志貴は思う。出会わなければ得ることができなかった。
だからこそ、この幸運に感謝する。そのために世界が滅びかけたのなら喜んで志貴は世界を差し出すだろうから。
好き。愛しい。ずっと一緒に居たい。そう思う。ただひたすらに。
ヤマトのために子を孕むことができないのが気がかりだった。
だけれどヤマトはミヤコに生ませればいいとそう言った。
志貴は今だミヤコに会ったことはなかった。
その言の葉に少しの寂しさと安堵を志貴は覚えた。
安堵は血が絶えることはないと知って。
寂しさは今だミヤコに会えないと知って。
だけれどそれすらも隠して志貴は微笑む。
そしてそれすらも愛しい人は暴くと知りその笑みを深めるのだ。
愛し愛しとこの心が伝う。貴方が何よりも愛しいと。
そして心からの微笑みを貴方に……。