短編
□夕暮れロマンス
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今はもうここにいない人を、私はいつもただ遠くから眺めているだけだった。だって、あの人は私からなんて遠くて遠くて遠い人だったから。
きっと今の私にはこのくらいの距離が丁度いいんだと、思ってた。だって近づきすぎたって結局傷つくのは私なんだから。分かってるよ。
「なあ、何見てんの?」
「…わっ!」
夕日に照らされたグラウンドをフェンス越しに眺めていたらいつやって来たのか同じクラスの高瀬に話しかけられ、ぼーっとしていた私は思わず驚きの声をあげてしまった。
「…別に、ってか高瀬なんでここにいるのよ。」
「別にいたっていいじゃん?」
「練習は。」
「今、休憩中。」
「そうか…。」
「何見てたの?…ってか帰んねーのかよ」
「別に、運動部見てただけ。…まだ、帰らない。暇だし。」
「…ふうん?」
意味あり気に私を見てくる高瀬は一体何が言いたいのだろうか。もしかして臆病な、私の心の奥底を見透かしているのだろうか。
と、そんな時ににんまりと笑った高瀬は後ろを指差していった。
「もう、慎吾さんはうちの部の選手として守ることも打つこともないし、うちの学校の生徒としてここに来ることもないけど」
「男として何か、お前に用があってわざわざ此方に来られたようですが?」
「…は?」
「それじゃあ俺はこれで失礼します。」
ワケが分からず、指の指された方向にとりあえず振り返る。高瀬は何故か私の後ろに向かって軽くお辞儀をして行ってしまった。
…そして振り向いた瞬間後ろに広がった光景…
「…え、何で!?」
「お久しぶり、ってかお前まだここで見てたのな。」
「え、島崎せんぱ…!?」
「言い残したことがあったんだ。お前、卒業式んときさっさと逃げるように帰っちまったからな。」
「…っ」
最後の別れなんて、したくなかった。遠くから眺めてただけ、それだけだったのに私は最後なんて、認めたくなかった。大好きな先輩が卒業していってしまうなんて。
「今日は…っ?」
「俺、好きだったんだ。」
「…え?」
「お前のこと、好きだったんだ。」
「いっつもこのフェンス越しに野球の練習を真剣に眺めてるお前が。」
「…っ!」
「もう、それも見れないんだなーって思ったら体が勝手にここまで来ちまって、」
「私だって、ずっとずっと大好きでしたっ!」
気がついたときには、もう私は思いっきり先輩に抱きついてて。嬉しくて涙が頬を伝っていた。
本当おかしな話、今まで話したことなんてなかったのに。
夕暮れロマンス
(全部全部、夕日に照らされたこの時間が嘘のようで、)
つまさき立ちの恋様提出
(20080316)