暗黙

□暗黙:10
2ページ/5ページ


「恐い、夢」

ふんわり

そんな形容がぴったりなくらいに、彼女は優しい温かさに包まれていた。
心地よい温度に、優しい香り。
鼻先が少しはだけた彼の胸に触れそうで、触れない。
抱き締める程に強くで引き寄せられる訳ではない、包み込まれている感覚。

「恐かったかァ?」

先程と似たような台詞だったが、何故だかとても優しい響きだった。

「‥‥恐かった」

「恐かったよぅ‥‥」

本当は、恐くなどなかった。
本当は、哀しくて、寂しくて、惨めで、そして、悲しかった。
その全ての感情を、「恐かった」に込めていた。

「そうか‥‥」

彼女の漆黒色の髪の毛を、高杉は指の間から流すように梳いていた。

「もう恐くなどあるめェ」

少し間を空けて、小さく、しかししっかりと呟いた。

「‥‥俺が、居るからなァ」

「オメェの夢の中には俺は居ないかもしれねェが、今はここに居るからなァ」

だから、恐くなどないだろう?

「そうね、晋助‥‥」

夢の中の温度の無いあの人よりも、今は目の前に温かな貴方が居てくれる。

「そういえばオメェ、今日は‥‥出掛けるんじゃなかったかァ?」

「あ‥‥そうだったわ、ソーゴに呼ばれているのだったわ」

「しんせんぐみに」

「ぶはっ」

今日初の天然攻撃を受けたのだった。



白い日。
日本語に直訳したら、今日はそんな名前の日だ。
雪も降らないこの季節に、何とも不思議な、けれどもどこか清々しくて清らかな雰囲気のする名前だと思う。
三月十四日、今日はホワイトデーだ。

なのに、あと少しでお嬢が来るというのに‥‥

「良いか、特徴は目だそうだ。見たら一目で分かるらしい」

幕府からの手配書を豪快に読み上げる近藤に、沖田は小さく小さく溜め息を吐いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ