暗黙

□暗黙:8
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「やめて下せェ、近藤さん。近藤さんのゴリ力で叩いたりしたら折れちまいまさァ」

すっぱりとそう言い放つと、彼女を自分の傍に引き寄せた。
引き寄せられた彼女はというと、興味深そうに土方を見上げた。

「隣の方はソーゴのお友達なの?」

「ペットでさァ」

「へー、そうなの!」

初めましてと会釈する彼女に、土方も会釈を返した後、はたと気付いたように怒声を上げた。

「オイ、待てぇぇえ!!」

当然のようにペットと言い切る沖田と納得したように微笑む彼女に、土方は突っ込むざるをえない。

「はぁ、これだから土方は。洒落も通じねェとは、全く使えねェヤローだ」

やれやれと肩を上げてわざとらしく言う沖田に、土方も応戦する。

「よぉし、剣を抜けぇぇえ!!」

「今度は暴力ですかィ?益々大人気ないですねー」

などと言いながら、土方の猛攻をひょいひょいとかわしていく姿はなんとも憎らしい。

「貴方がヒジカタさん?」

くすくすと笑いながら首を傾げ見上げる彼女に、土方は戸惑いながらも返事を返した。

「俺を知ってるのか?」

「ソーゴが貴方のことをよく話していたもの」

そう言ってこと更にっこりと微笑む彼女に、土方は嫌な予感しかしない。

何を話した、総悟‥‥

けれど土方の予想とは裏腹に、彼女はにこりと笑うとちょいちょいと土方を手招きした。
疑問に思いながらも彼女の傍に寄ると、彼女は背伸びをして土方の耳に口元を寄せて囁いたのだ。
まるで内緒話をする子供のように。

「ソーゴはね、貴方やシンセングミの事をいつも嬉しそうに話してくれたわ」

そうしてくすくすと笑うと一つ付け足した。

「きっと、本当に大好きなのね」

そう言うとぱっと離れる彼女に、土方もぎこちなくだが微笑んだ。

彼女と違って、俺は笑うのは苦手だな‥‥

「どんな素敵な人たちか知りたかったの!会えて良かったっ!」

「そうか、こっちこそありがとな」

沖田の意外な一面を教えてくれたお礼を込めてそう言って薄く笑うと、彼女も笑う。

総悟が気に入るはずだ。

心にぽっと温かな灯が灯るような感覚に、土方からも自然と笑みが零れた。

「キモイ。笑うな、土方コノヤロー」

ぼそりと、背後から肩越しに沖田の低い声が土方の耳を貫いた。

ぞくり

おいおい、総悟のヤツ、殺気放ってなかったか‥‥?

「そういえばソーゴ、今日はおもしろい格好をしているのね」

土方の背後から姿を覗かせた沖田に、彼女は声を掛けた。
確かに、今日の沖田はおかしな格好をしている。
チームカラーの黒に染まったスーツに、表は黒、裏は紅のマントを羽織っていた。
よく見れば、口からは牙らしきものを覗かせている。
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