暗黙

□暗黙:7
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暗黙:7
病は気から、彼女から


簡素な宿の一室から聞こえるのは苦しそうに咳き込む声。
なるべく咳を押さえ込むようにしているのは、彼のプライドなのかもしれない。

「ゲホッ‥‥コホッコホッ‥‥」

「晋助‥‥」

苦しそうに咳き込む彼を見て彼女は思うのだ。

「弱々しい晋助なんて‥‥なんだか不気味だわ‥‥」

おいおい、病人に掛ける言葉か?
まあ、自分でもそう思うけれど‥‥
正直な感想、アリガトウ。

横になる自分を覗き込みながらぽつりと漏らした彼女の一言に、ふっと気が抜けた。

「晋助は着物をはだけさせ過ぎなのよっ、だから風邪なんかひくんだわ」

‥‥‥確かに。
否定できない‥‥

普段の自分の格好を思い浮べていると、また一つ咳き込んだ。

「ケホッ‥‥‥」

「とにかく、熱を計ってみなくちゃ」

そう言うなり、体温計を取るためか彼女は立ち上がったが、直ぐに横になる高杉の隣に座り込んでしまった。

「そうだわ、ここには体温計なんて無いじゃない‥‥」

「平気だ‥‥ケホッ‥直ぐ治る」

「わけないでしょ」

俺から彼女への小さな気遣いと強がりはあっさりと否定された。

何だ?
病気なのに心を痛め付けられている気が‥‥

病で多少なりとも弱った心に塩を、いや、粗塩を擦り込まれている気分だった。
そんな高杉の額に手を当てて、簡単に体温を計る彼女の掌がひんやりとしていて気持ち良く、思わず目を閉じてしまった。

「熱いわ‥‥」

そう呟くと同時に立ち上がる気配がした。
先程まで額にあった感覚が名残惜しい。
暫らくすると額に冷たく濡れた感覚が走り、思わずぱちりと目を開いた。

「取りあえずはこれで我慢してね」

濡れたタオルか。
でも俺は、濡れたタオルの冷たさよりも彼女の掌の方が心地好いと思うが。

そこまで考えてからはっとした。

な、何恥ずかしいことを考えてるんだっ!

どうやら久しぶりに味わった病に、俺の心も対応しきれていないらしい。
少し情けなくなって、布団を顔まで覆うように引き上げた。

「体温計と薬と‥‥必要なものを買ってくるわ」

慌てたような雰囲気で立ち上がる彼女。

「あ‥‥‥」

行かないでほしい。

何故だか口に出してしまいそうな程に、強くそう思った。
これも風邪で心が弱ってしまったからなのか、もしくはもっと別の何かなのか、重く痛む今の頭では考えることなど出来なかった。
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