暗黙

□暗黙:3
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紫煙を深く肺に取り込んでから、自分の気配しかしない部屋へふうっと吐き出した。
ふと人の気配。

ガチャリ‥‥

「大変よっ、晋助っ」

やはりと言うべきか、今回の騒動を運んできたのも彼女だった。
彼女が部屋に現われた瞬間に、一人きり冷めたような気配が霞むように馴染むように和らいだことに、高杉は気付かないフリをした。
そうしなければ、自分に付き纏う孤独に気付いてしまいそうで、恐ろしかった。

「何だァ‥‥騒々しい‥‥」

「町で友達から聞いたの、最近攘夷志士の『高杉晋助』って人が江戸に潜伏しているらしいわ‥‥」

それ、俺じゃねェのかァ?
え?
冗談か‥‥?

「同じ晋助でも、ウチの晋助は良い子なのにね‥‥」

本気だっ!!

思わず、手にしていた煙管を落としてしまった。
一瞬慌てたが、それを悟られぬように、自然な動作で煙管を拾い上げた。
ふっと焦げ臭い香りがしたかと思えば、畳に焦げ跡がついてしまっていた。

俺らしくもねェ‥‥

畳に刻まれた、情けない自分の証に心の中で舌打ちしつつ、彼女に視線を移した。

「晋助‥‥貴方も出歩く時は気を付けてね‥‥」

何に?
あっ、俺に?

「あァ‥‥」

曖昧な返事を返しつつ彼女を見ると、不安げに口元を歪めていた。
その不安な表情をさせている原因が攘夷志士としての俺なのかと思うと、少し心が重くなる。
彼女はすっとその白くて美しい両手で俺の手を包み込むと、震える声で、しかしはっきりと言った。

「きっとよ?貴方が死ぬなんて‥‥私、嫌だわ」

「‥‥‥」

布で覆われて見えない彼女の瞳が不安に揺れているようで、高杉は小さな彼女を抱き締めたい衝動に駆られていた。
しかし、そんな感情は自分には似合わないと思い、慌てて話題を変えることにした。
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