暗黙

□暗黙:2
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「ねぇ、晋助‥‥」

「何だ‥‥好き嫌いかァ?我儘言ってねェで食えや」

「いいえ、違うわ」

半ば呆れたような口元で、彼女は見るともなく高杉に顔を向けた。
見るともなくという表現は、果たして彼女に当てはまるのかは疑問だが。
何故なら、彼女の両の瞳は白い布で閉ざされているのだから。

「貴方は食べないの?」

「腹、減らねェんだよ」

そう言う晋助は窓辺に寄り掛かり、先程から盃を傾けてばかり。
ここは一つ、私が晋助に教えてあげなければならないようだ。

「ねぇ、晋助。一つ、教えてあげる」

「‥‥?」

「お酒ではお腹いっぱいにはならないの。酔いという名の幻覚を見ているだけよ?」

「テメェ‥‥俺を馬鹿だと思ってやがんのか?」

しかし彼女にしてみれば、今の台詞は本当に親切のつもりで言ったものらしい。
現に、今は俺の怒気を感じたらしく、悲しそうに口元を歪めているのだ。
これ以上文句を言うのも彼女に忍びないと思い、ここで口を止めることにした。
暫しの沈黙の後、口を開いたのは彼女の方であった。

「はい、あーん」

「ブハッ!!」

今度は何の脈絡もなく、箸に里芋を挟んで突き出してきた。
あの沈黙の間に考えを巡らせていたらしい。
白くて細い指が、二本の箸を器用に操り、里芋というある種最強の敵をいとも簡単に摘んでいる。

「これ、美味しいの」

「食え、と?」

まったく、何を考えているんだこの女。
親切か?
親切なのか?
ああ、この女のことだ、親切だろうよ。
こんな恥ずかしい所業、よくやるものだと感心するしかない。
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