暗黙

□暗黙:1
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「侵入者だわ‥‥数は一人」

「ふっ、たった一人だと?命知らずめ」

人を見下すような口調。
男はそう吐き捨てると、部屋に唯一の光をもたらす扉を、閉めた。
再び闇に支配された部屋で、少女は唄うように囁く。

「あーあ、行っちゃった‥‥」

話は最後まで聞かなくちゃねと、小さく漏らす。
闇の中で少女は呟く。
その言葉を闇に溶かすように、そっと。

「死んじゃうかしら」

誰にも届かないと知りながら囁くその言葉は、孤独な少女の独り言。
一人遊びのようなものだ。

「この人は、今までの人とは違うわ」

耳を澄ませば、鼓動が減っていく。
先程までは確かにこの場所にあふれていた鼓動が、呼吸が、徐々に冷たくなるように静まっていくのを、黙って聴いていた。

「‥‥来た」

少女の囁きは、重厚な扉が開く耳障りな音でかき消された。
闇の世界に光が差し込み、世界に輪郭を与える。

「やあ、いらっしゃい」

豪華な椅子に腰掛けたまま、扉を開けた人物を出迎えた。

「このままでごめんなさいね?何せ、動けないの」

円形の、何もない部屋の中央に置かれた椅子に腰掛けた少女は笑った。
重厚な造りの椅子は、金の装飾が眩しい。
しかし、この照明の無い部屋ではその価値など無に等しいと言える。

「‥‥テメー‥‥何者だ?」

「あら?見て分からないのかしら?」

「‥‥」

分かる訳がない。
少女は両目を白い帯状の布で閉ざされていた。
手はそれぞれ椅子の肘置きに置いたまま、こちらも帯状の布でぐるぐると巻かれ、固定されている。
そんな少女の長い黒髪が、さらさらと、肩を零れ落ちるように流れた。
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