暗黙
□暗黙:8
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暗黙:8
魔女は自分を魔女だと知らない
青に赤、それはある男にとっては見慣れた絶望のコントラスト。
しかし、その「ある男」が高杉でないことは確かだろう。
高杉は少し長引いている風邪のせいで床(とこ)に伏せたままなのだから。
こんなに良い天気なのに‥‥なんだか晋助が可哀相だわ‥‥
「うん?」
青空と、それを仰ぐように倒れる血塗れの男の前に彼女は立った。
「こんな街中に人‥‥っぽいゴリラなんて‥‥」
可哀相にと、彼女がその生き物を覗き込むようにしゃがんだ時だった。
「うぐ‥‥お妙さ‥‥ん‥‥」
「喋ったわ‥‥」
サーカスにでも出ていたのかしら?
ううんと首を傾げた後、とにかく放ってはおけないと、彼女はハンカチを手にその生き物の額に流れる血を拭ったのだった。
そんな額を拭う感触に、男はうっすらと瞼を上げた。
青い空と太陽の光を背に、美しい女(ヒト)の姿だけが浮かぶ。
「お、妙‥‥さん?」
「良かったっ!目が覚めたのね」
その声で、相手は自分の意中の女(ヒト)ではないと分かり、彼は少し悲しそうな顔をした。
「ごめんなさい、私がゴリラさんの素敵な人じゃなくて」
にっこりと、しかし、申し訳なさそうに微笑む彼女に、男は恐縮してしまう。
「す、すみませんっ、助けて頂いたのにっ」
「良いのよ、気にしないで!それより、ゴリラさんの大好きな女の子ゴリラさんを見てみたいわっ!」
きっと可愛らしいゴリラさんなんでしょうねと、無邪気に微笑む彼女に流されそうになっていた。
「あれ?何かがおかしいような‥‥」
「それより、ゴリラさんは迷子なの?」
「いや、迷子じゃなくて‥‥いや、その前に、俺はゴリラじゃなく―――」
彼女の誤解を解こうと、男が口を開いた時だった。
「あり?近藤さん、こんな所で何やって‥‥って愚問ですかねィ?」
少年と呼ぶには大人びた、青年と呼ぶにはトーンが高い声が男の言葉を燐と遮った。
「またストーキングかよ、近藤さん」
その声に続くように、低い声が呆れたように呟いた。
「ソーゴっ!」
「何処の可愛い娘さんかと思ったら、お嬢じゃねェか」
ぱっと顔を上げると、そこには感じ慣れた友人がそこに立っていた。
見慣れたではなく、「感じ慣れた」というのは、彼女の特殊な力のせいだろう。
「その人が前に話した近藤さんでさァ」
「コンドーさんっ!しんせんぐみで一番偉い人ね」
はじめましてと、ぺこりとお辞儀をする彼女に、近藤も頭を下げた。
「いやいや、こちらこそ初めまして!!まさか、総悟にこんな可愛らしいお友達が居たとはっ」
がははと笑いながら、彼女の細い肩を遠慮無しに叩いた。
軽快に叩かれる度に、彼女の体がふらふらと揺れる。