風姿華伝書

□華伝書10
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〈数日後。お昼過ぎ〉


その日。        

朝から小雨が降り続いて


おり、道場からは、


威勢のいい隊士たちの声が響いていた。


  おおぉっ!!!


ドターンッ!バターンッ!

「おいっ!立て!


まだ稽古は始まったばかり

だろうがっ!」


と、いつもとは違い荒々しい声が飛ぶ。


沖田先生かと思えば、


その声の主は、原田さんだった。


新選組でも美男として、


名高い原田さん。


(本当の話です)


そんな原田さんが、


汗だくになって、隊士たち

に稽古をつける中。


「・・この前。お優さんに

何言ったんだ、トシ」


パタンッと、戸を閉め、


土方さんの部屋へと、


やってきたのは近藤局長。

「―・・・」


とうの本人は小机に向かい

わざとらしく振り向かない。


局長はフゥッと、ため息


混じりに、座り込むと、


「まぁ、恋愛にうとい


俺が、口出しするような


ことじゃ、ないんだがな。

お前もいいかげん、


女に手をだすのは、


やめたらどうだ?」


と、親友であるが故に、


はっきりとした口調で話す。


どうやら、この前。


優が泣いていたことに


気付いていたらしい。


と、その言葉に、


土方さんはやっと、


局長へ目線を合わせると、

「けっ、何いって


やがるんだ、近藤さん。


俺がいつ、女に手をだした?」


と、不機嫌な顔をして見せた。


「・・違うのか?」


どうせ、遊んでいたところ

を見られでもしたんだろう

と、ばかり思っていた


局長は驚き、目を丸くする。


「用があって、街を


歩いていた時、遊女に、


袖を引っ張られたのを、


見られたってぇだけだっ」

と、土方さんは力強く、


局長の言葉を否定する。


「―・・・」


どちらも、同じようなもの

ではないかと局長は再び、ため息。


遊女がいるとなれば、


島原辺り、ということになる。


そんなところをわざわざ


歩くなど、その気が


あろうがなかろうが、


優からは遊んでいるよう


にしかみえなかったことだろう。


「とにかく、違うなら


そう言ってやれば、


いいじゃないか。優さん、

この前、泣いていたんだぞ」


「知るか、そんなこたぁ」

土方さんは、怒ったように

再び、小机に向かう。


「ったく。あいつが、


あのまま、江戸にいりゃあ

こうならずに、済んだものを・・」


そして、皮肉を口にし始めた。


しかし、一見。


女の人なら、イラッとくる

この言葉の意味を、


親友である局長はすでに見抜いていた。


「そんな嘘を、ついても


無駄たぞ、トシ。本当は、

良かったと思っているんだろう?


優さんが、京に付いてきてくれて」


「―・・・」


親友の目は、なかなか


ごまかせたものではないらしい。


少しの沈黙の後、土方さんは、一言。


「―・・・うるせぇや」


そう、局長に向かってつぶやいた―・・・。
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