風姿華伝書

□華伝書8
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と、吉次は言い放った。


「な、何故ですかっ!?


どうして、私が―・・っ」

「気に喰わねぇんだよ!!

お前が、周助先生に教わり

始めてから、若先生まで


宗次郎、宗次郎ってさ!


たいして、気も強くない


くせに、何なんだよっ!!」


今まで、吉次の中にたまり

にたまっていたものが、


一気に宗次郎へ吐き出される。


いつも、皆のガキ大将的


存在だった吉次。


そんな吉次にとって、


宗次郎は、皆へ自分の強さ

を見せるための、かっこう

の餌食だったのだ。


まぁ、小さい子供のうちに

は、よくあることである。

しかし、その対象だった


宗次郎が、あの日から


まるっきり変わってしまった。


弱虫・泣き虫から、      剣才へと―・・・


その結果。


当然、周助や勝太が宗次郎

にばかり構うようになる。

そして、今までのように


いかなくなった悔しさを、

吉次はずっと、ため込んでいたのだ。


「これは決闘だ!お前に


剣才なんか、あるはずがねぇっ。


俺が叩きつぶしてやる!来い!」


吉次は持っていた刀を抜く。


それを見て、宗次郎は目を丸くした。


「それ・・は、道場以外に

持ち出してはいけないはず

の、刃引きした刀・・?」

刃引きした刀とは、刀の


刄をわざとつぶして、斬れ

味を悪くしたもののこと。

深く斬れることはないが、

強くあたれば、骨が折れて

も、おかしくはないだろう。


故に、道場以外への持ち


出しは、禁じられている


はずなのだが―・・・。


吉次はフンッと笑うと、


宗次郎へ刀を差出しながら

「何今更、おじけずいちま

ってんだよ。言っただろ、

これは決闘だって。だから

借りてきたんだ」


と、言い、刀を構える。


「どうしても、この決闘。

受けなければいけませんか?」


宗次郎は、しぶしぶ刀を


平晴眼に構えながら、尋ねる。


「なんだよ、お前、


やるまえから、負けを認め

るのか?お前、それでも


武士の子かよ?それとも、

お前の父上も、そんな


気弱だったのかぁ」


あははっと周りにいた他の

子供たちが、冷やかすように笑った。


すると、さっきまでずっと

弱気だった宗次郎の目が、

ギロッと変わり、


「―・・・れ」     

「え?何だよ、何か・・」            
一気にさけぶ。


「黙れ!!父上は強かったんだ!


悪口を言うやつは誰一人


許さないぞっ!!!」


その、ものすごい迫力に


圧倒され、周りの者たちが

しん・・と静まりかえった。


宗次郎の父である勝次郎は

宗次郎がまだ幼いうちに


亡くなってしまっている。

故に、強かったなど宗次郎

が知るはず無いのだが、


少なからず、幼心に父への

憧れは、あったに違いない。


そして、面影を覚えて


いないがこそ、よけいに


父は強かったと、信じる


気持ちが、強いのだろう。
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