風姿華伝書

□華伝書95
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一こちらへ来なさいっ!一

「一・・・・・・っ」


突然、背から聞こえた


先生の声にみつはハッと


我に返ると、勢いよく腕を

振り払い、先生の背へ


かけこんでいった。


ホッと、胸を撫で下ろす、みつ。


「よぅ。誰かと思ったら


<宗次郎>じゃねぇか」


(一・・・えっ・・・・?)

「みつさんに一・・・何か

用ですか?吉次さん・・」

挿し絵です。


スッと、先生の手がみつの

前へ伸びる。


(一・・・<吉次>・・・?)

みつは首をかしげた。


そして、そのまま瞳を


急ぎ走ってきたのであろう

肩を小刻みに上下させて


いる先生へと向けた。


吉次・・と、確かに先程


先生は口を開いた。


それが、みつは不思議で


仕方なかったのである。


今さっき、この場へと


走ってきたばかりの先生が

どうしてこの者の名を


知っているのか一・・と。

「一・・・お知り合い・・

なのですか?」


みつはソッと、先生の背へ

静かに問い掛けてみた。


「一・・・・・・・・」


その刹那。


先生の顔つきがみるみる


険しくなっていくのを


みつはしっかりと瞳で感じ

とっていた。


「一・・・何だ、まだ


女には何も話してなかった

のか?・・・お前も、


相変わらずの優男だな」


「一・・・そういう


あなたは、昔とくらべて


随分、変わりましたね。


一・・・・・・何人、人を

斬ったのですか・・・?」
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