風姿華伝書

□華伝書80
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「そこまで言うなら、


私は手を貸しませんからねっ」


「っ、結構ですっ。


何とかして優さんに


一緒に来て頂けるよう頼みますから」


最後には、プイッとそっぽ

を向いて、二人は歩き


だしてしまった。


(一・・・ガキ・・・)


「ったく、どっちも素直


じゃないねぇ」


二人が去ってゆくのを


見送りながら、原田さんと

副長はいつまでも二人の


背中を呆然と眺め続けていた。


そして、しばしの後。


今日の市中見回り役である

斎藤さん率いる三番隊が


ぞくぞくと門を出てゆく中

「優さん・・あの・・・」

朝食の後片付けを終えた


優をみつは呼び止め、


朝、副長から頼まれた事の

いきさつを説明した。


優は、洗い終えた皿を拭く

手を休め、みつの話に耳を

傾ける。


屯所移転の話が中々進まず

副長が最後の手段として


手を貸してほしいと言って

いること。


そして、移転を早めるのは

山南総長との思い出が


溢れるこの壬生を、早く


立ち去ってしまいたい故


なのではないかということ。


「一・・・なる程ねぇ」


優は、近くの座敷に腰を


下ろし、一息ついた。


「確かに、みっちゃんの


考えは当たってるわ。


・・・実はね、歳三の髷


結ったの私なのよ」


「えっ!?優さんだったん

ですかっ?髪結いではなく?」


みつが驚くのも無理はない。


当時には、髪結いという


髷を結うことを職業とする

人達がおり、朝起きると


同時に髪を結ってもらう


という生活が、普通であった。


「朝、局長を起こしに


行って、縁側を歩いてた


時、歳三に頼まれたのよ。

『髷にしてくれ』って・・

私も最初は驚いたけど、


結ってる最中にわかったわ。


歳三はきっと一・・・・・

《山南さんを忘れたくは


ないんだろうなぁ》って。

だからこそ、あんなに


長かった髪をきって


わざわざ、山南さんと同じ

【髷姿】に改めたんだわ」
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