風姿華伝書

□華伝書79
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一・・・例え、斬られたと

しても、私は一・・・・・

〈この方〉を救いたい・・

私に生きる場を


与えてくれた


〈この方〉だけは一・・一

「一・・・み・・・っ」


「一・・・・・」


先生が驚きの声をかける中

みつは必死に、放すもんか

とばかりに、先生を抱いていた。


いや、言い直せば    

しがみついていた、と  

描いた方が正しいかもしれない。


それ程に、先生の肩は  

大きく、みつがいくら  

両手を伸ばしても、   

支えきれないものであった。


しかし一・・・。


みつはグッと手に力を入れ

先生の耳もとでささやく。

「一・・・〈半分〉・・」

「一・・・・・え・・・」

「その哀しみ・・・半分


私にください一・・・」


すべてを受け取ることは 

できない。


でも、せめて先生の哀しみ

半分だけでもわかりたい。

だから一・・・。


「一・・・みつさん・・」

挿し絵






    〈同刻〉


その頃。


壬生に屯所を構える   

新選組内では、山南総長の

葬儀が終えられ、皆、  

今日一日は喪に服すことと

なった。


故に、とうに昼を迎えて 

いるが、屯所内はうその 

ような静けさに包まれていた。


そんな中。


「一・・・ったく、


あの坊は一体、どこ


いきやがったんだ」


と、荒々しく声を上げる 

土方さんの姿が局長室にあった。


先程から、縁側に座り込み

腕を組み、同じような


言葉ばかり繰り返している。


そんな土方さんの姿に、 

局長は静かに答えた。


「一・・総司のことかい?

まだ、怒ってるのか、トシ」


すると、土方さんは


立ち上がり、振り返りつつ

「当たり前だっ!総長の


葬儀に、一番隊の組長とも

あろうやつが出なくて


どうすんだ!」


と、声を上げた。


確かに、その他の組長達が

哀しみを乗り越え、葬儀に

出席している中、その隊の

一番に属する組長が不在 

なことは、決してよいこと

だとはお世辞にもいえない。


しかし一・・・と、局長は

言葉を続けた。


優に頼み、持ってきて  

もらった酒を杯につぎつつ

「一・・・だがな、トシ。

もしかすると、総司は


我々に気を使ったのかも


しれないよ。自分が傍に


いれば、我々は決して


〈素直〉にならないだろう

と一・・・・・」


「一・・あのっ、ガキが」

「一・・・今日は、飲む


だろう?トシ。私も飲む


から、付き合ってくれないか?」


杯を振り向いた土方さんに

差し出した。


「一・・・っ、くそっ」


すると、突然。


悔しそうな声を上げた  

土方さんは中庭へと裸足の

まま、飛び出し、雨の中


腰に差していた小刀を  

抜き一・・・・・


     ザンッ


「っ、トシっ!?」


長年、伸ばし続けた長い 

黒髪を、思いっきり   

切り下げた一・・・。


バサッと切られた長い髪が

土方さんの手の平に残り、

長年伸ばし続けた髪は  

すっきりと短くなっていた。


そして、呟く一・・・。


「一・・・この髪は


俺が、サンナンと共に


過ごしてきた日々、


そのものだ。


一・・・そんなもの・・」

一・・・忘れてくれ・・一

「こんな一・・・


女々しいもん、俺にはもう

必要ねぇ一・・・」
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