風姿華伝書

□華伝書70
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「一・・・っ!?!」

沖田先生の言い放った  

その驚きの言葉に、   

土方さんはカッと目を  

見開き、思わず、口にして

いたお茶を吹いてしまった。


それ程に、衝撃的なものだったのだ。


咳き込む土方さんを余所に


先生は持っていた手拭いで


濡れた髪をふきつつ、


「一・・・土方さん。


なぜ、そんな明らかに座る位置が遠退くんです?」


と、口を濁した。


実際、土方さんは元座っていた場所から


畳一つ分程、後ろへ引いている。


「・・・おま・・・


昔から、女嫌いなのは知っていたが


まさかその・・〈男〉に・・?」


自分で言っているくせして


一番落ち着きのない土方さん。


先生が口にした、    







一土方さんは、その・・


〈衆道の気〉ってわかりますか・・一


との言葉に、声まで震えている。


すると、先生は


「なっ・・・違いますよ!


私にはそんな気ありません!!


ひ、土方さんにそういう


経験が、あるのかって話を・・・」


言ったはいいものの恥ずかしくなったのか  


衆道を完全否定したのち、


か細い声で、再び土方さんに問い掛けた。


色々なことをしてきている


はずの土方さんである。


先生が、相談にくるのも無理ない。


「何言ってやがる!俺は女以外で


手ぇだしたことだけはねぇ!男が


男の尻を追い掛けるなんざ、虫酸が


走るぜ!ったくっ」


「一・・・ですよね」 


(・・・やっぱり・・)


先生は困り果てた。


実を言うと、あの日以来、


何かある度に、左助が  


やってくるので、先生はいちいち


返答することにすら疲れ果て、


困っていたのだ。


故に、経験豊富な土方さんに助けを求めたらしい。


しかし、この様子では  


よいアイディアなど出てきそうにない。


「・・・も、もう一度、


聞くが、お前から誘ったという話ではないんだな?」


「もちろんですよ!


私にはそんな気、欠片もありません!!」


ここまで言われてようやく


土方さんも納得できたのか近くに舞い戻ってきた。


先生は頭を抱える。


「どうしたらいいんでしょう?


このままじゃ、みつさんにも


誤解されたままになるし・・・」


先程、二人分の茶をいれるために


先生は台所へ足を運んだのだが、


みつはまるで避けるように通りすぎていってしまった。


みつとしては、衆道の話よりも、


自身が恥ずかしくて先生から逃げたと


言った方が正しいのだろうが、


そんなことを先生がわかるはずもない。


すると、悩みにうなる  


先生を横目に、土方さんはフッと


微笑みを浮かべた。


「〈みつ〉て一・・・。


あの女中か?お前の・・」


との言葉に、先生は沈んで


いた顔をバッと上げつつ 


半ば叫ぶように、言った。


「ち、違いますからね!


土方さんの考えてるような


ことでは、決して・・っ」


「一・・・・・」フッ


「わかってるような顔して


笑うの、よしてくださいよっ!!」
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