風姿華伝書

□華伝書67
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「しゅ、衆道だなんて、


そんな・・・違いますよね

優さん・・・」(泣)

みつは、半泣き状態で  

優に尋ねる。


そんなに、先生のこと・・

と、優が呆れる程に、  

その眼は必死さを讃えていた。


大丈夫と、勇気づける以外

に何が言えたというのか。

「大丈夫よっ。あの先生が

衆道だなんてあるわけない

し、たぶん、その隊士の


片恋にすぎないわっ。


私も、その隊士が誰なのか

探ってあげるから、そんな

泣き顔で、先生の前に


出たりだけは、しちゃだめよっ」


優は、みつの肩をガシッと

つかんで、口を開く。


「一・・・・・っ。


・・・はいっ!」


そして、その力強い優の 

言葉に、みつは身を律し 

真剣な眼つきで、答えた。



〈同刻・道場にて〉


「一・・・・・」


みつが優の言葉のもと  

決意を新たにしていた頃。

隊士達も寝静まり、   

しん・・と静まり返った 

道場の戸へ手を掛ける  

ある人物の姿があった。


その右手には、燭台が


握られ、寝巻姿の腰には 

大刀がさしてある。


そして、道場の戸を開いた

瞬間一・・・。 


    ポンッ


その人物は左肩をつかまれた。


ビクッとして、後ろを  

振り返ると、闇の中


聞こえてきたのは、


「あっ、やっぱり、


斎藤さんだっ」


という、


「なっ、・・・沖田さん」

沖田先生の声。


突然、現れた沖田先生に 

一人、道場を訪れようと 

していた斎藤先生は眼を丸くした。


「あんた、こんな夜更けに

道場へ何の用だ?」


そして、戸を開き、中へ 

入ってゆきながら、尋ねた。


すると、沖田先生は道場の

壁にかけてあった、   

稽古で用いる、太い木刀を

手に取り、背伸びをしながら、


「いえね、大した理由は


ないんですけど、急に


一汗かきたくなりまして。

一・・・あぁ、よかった


斎藤さんがいて。一人じゃ

素振りしか、できませんからね


と、笑みを浮かべた。


「一・・・・・っ、


今まで生きてきた中で、


あんた程、嫌な男は


初めてだ。沖田さん」


斎藤さんは、その笑みに 

全てを悟り、軽く眉を潜めた。


つまり、沖田先生には  

全てがわかっていたと言うことだ。


斎藤さんが、この間の  

吉村左助との試合で一本を

とられたことを悔やんで 

いたことも、それ故に  

夜な夜な道場へ通っては 

一人、修練をつんでいる 

ことも一・・・。


「えーっ、どうしてですかぁっ?


一緒にやりましょうよ、


稽古」


「・・・心から、丁重に


断る。俺は、一人でやりたいんだ。


一・・・どうしてもと


いうなら、俺に勝ってから

言うんだな」


一緒に稽古を、と頼む  

沖田先生に、斎藤さんは 

そういうと、スッと木刀を

青眼に構える。


「そうこなくっちゃっ」

沖田先生も、いつもの  

平青眼に構え、微笑んだ。

深夜。


道場には、いつまでも  

この二人の声が響き渡り


止むことをしらなかった。
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