風姿華伝書

□華伝書66
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〈その後〉


昼を過ぎ、そろそろ夕刻に

なろうかという頃。


俄かに、新選組・屯所内が

さわがしくなった。


数人の隊士達が、口々に 

何かを叫びながら、探している。


と、その中の一人に鉄之助

の姿があった。


稽古着姿に木刀を握り、 

キョロキョロしながら、 

台所へと入ってゆく。


「みつ姉っ」タタッ


そして、真っ先に向かった

のは、使用済みの鍋を洗う

みつ。


「あれ?鉄之助君、


どうしてここに一・・・」

まだ、夕食には早い。


どうしたのかと、尋ねると

「沖田先生、どこにいるか

知らないっ?」


必死な顔つきで、口を開いた。


「え、先生一・・・?」


「壬生寺は探したの?


いつも小さい子達と


遊んでいるじゃない」


洗いものの手を止めたみつ

の背後から、ひょいっと  

優が顔を覗かせた。


鉄之助は首を横にふる。


「それが、いないんだよ。

朝、巡察が終わってから、

フラリと外へ出かけた


らしいんだけど・・・」


「でも急に、稽古の担当日

でもないのに、沖田先生が

呼ばれるなんて、何か


あったの?」


優が、聞き返す。


すると、鉄之助は不安に 

満ちたような面持ちで、


「新しく、入隊希望の人が

来たんだけど、その人・・」


と、途中で口を濁した。


「その人がどうしたって言うの?」


たまらず、優が続きをせがむ。


「一・・・似てるんだっ。

沖田先生の剣筋にすごく!

早さもあるし、動きの読み

も、それに〈突き技〉も


先生にそっくりで一・・。

あの斎藤先生が、試合って

三本中一本とられたんだっ。


それで、入隊は決まった


んだけど、力量を


計りたいから沖田先生を、

と局長が・・・・・」


「さ、斎藤先生がっ」


二人とも、顔を見合わせ 

驚きを隠せない。


斎藤先生といえば、   

隊内で唯一、沖田先生と 

本気でやりあえる人物と 

言っていい方である。


そんな斎藤先生が、一本を

とられるなんて一・・・。

聞いているだけで、局長達

の苦々しさが、伝わって 

くるようだ。


「っ、鉄之助くん、これ


貸してね」タタッ


「いいけど、みつ姉っ!?」


急に何を思ったのか 


みつは鉄之助から木刀を 

受け取ると、夕食の支度中

にも関わらず、走り去っていった。


隊内にもいない、壬生寺 

でもない、もしかしたら 

一・・・・・あの場所一


今や、新選組の面目を  

保てる者は、


先生しかいない一・・・、

急に現れた新人に幹部が 

負けるわけにはいかないのだ。


「沖田先生ぇ一っ!!」


夕刻。


夕日色に背を染めながら、

沖田先生を探す、みつの 

声が、京の都に響いていた。
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