風姿華伝書

□華伝書61
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「一・・・・・


あまりのことに力が抜け 

思わず立ち尽くす、みつ。

どうやら、副長が先生相手

に腕試しをしただけらしい。


まったく、じゃれている 

のか、本気で斬りあって 

いるのか・・・    

わからない人たちである。

「ほ、ほな、さいなら。


沖田はん」


「えぇ、また遊んで


くださいね」


と、この空気に耐えられ 

なくなったのか、子供達は

すごすごと、この場を  

立ち去っていった。


そんな子供達の後ろ姿に 

眼をやりつつ、先生がつぶやく。


「あーぁ、土方さんのせい

ですよ。次は、雪投げを


する約束だったのに・・」

「いつまで、ガキと遊んで

るつもりだっ!・・・


近藤さんが容保公の


もとへ出向く。


一・・・供についていけ」

容保公とは、新選組の  

オーナー・京都守護職の 

ことである。


その副長の言葉に、先生の

眼つきが変わる。


「一・・・何か、あったん

ですか?」


その顔に、先程までの  

にこやかさは、微塵もない。


副長は、軽くため息をもらした。


「こんな時だけ、顔色


変えやがって。


最近、新選組の名も


都へ知れ渡ってるからな、

もしものために・・・だ。

この役目、お前に不足は


ねぇと思うが・・・?」


新選組の局長が、いくら 

何でも、一人で出掛ける 

わけにはいかない。


かといって、いざと   

いうときに役にたてない 

者をつかせても、意味がない。


故の、沖田先生である。


役不足など、あるわけがない。


先生は、顔をほころばせ、

口をひらいた。


「一・・・もちろんです!

近藤先生は、今どちらに?

一・・・例え、


斬られたって、先生は


死なせやしませんっ!」


「一・・・・・っ」


と、先生のうれしそうな顔

とは逆に、みつの心はきしんだ。


しかし、その心情が   

先生に伝わるわけもなく、

副長と先生は、みつに背を

むけ、寺を後にしてゆく。

「一・・・・・っ」


グッ


「一・・・・・っ?」


急に、袖をつかんだみつに

驚き、先生が振り返った。

ほんの少し、袖をつかんで

いるだけなのだが、その手

には、力を感じさせる。


そして、恥ずかしさから、

とても顔を上げられない、

みつは、うつむきつつ


「一・・・御武運を・・」

とだけ、つぶやいた。


その後に続く、言葉はない。


しかし、先生はからかいも

せず、優しく微笑みを浮かべた。  


みつの、言いたいことは 

何となく、わかる。


一・・・死ぬな・・と一


「一・・笑ってください。

みつさんには、いつも


微笑んでいて、


ほしいんですから・・・」
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