風姿華伝書

□華伝書61
2ページ/7ページ

やがて、時は過ぎ一・・。

池田屋事変や禁門の変と 

いった時代のうねりを  

残しつつ、元治元年も  

いよいよ、終わりをむかえ

ようとしていた一・・・。



〈数日後・大晦日〉


「こっちできたよ


沖田はんっ」


「ちょっと待ってくださいねっ。


あと少しで、できますから


ここは、壬生寺。


昨夜、降り積もったと  

見られる雪景色の境内に 

沖田先生と八木家の子供達

の姿があった。


月日は、とうとう元治元年

の大晦日をむかえ、   

昇った朝日が、キラキラと

真っ白な雪を照らし、  

鮮やかな色に染めている。

そんな中、広い境内で  

先程から、先生は子供達と

一緒に、雪だるま作りに 

熱中していた。


手袋など、ない時代である。


子供たちも先生も    

素手で、セッセと雪を  

かきあつめてゆく。


と、そこへ一・・・。


「沖田先生っ!!」

口から、白々しい吐息を 

こぼしつつ、息をきらせ 

足元が悪い中、走ってきた

のは、みつ。


見にくい眼をこらし、  

先生を見つけるや否や、 

大急ぎでやってきた。


どうやら、ずっと先生を 

探していたらしい。


先生は、走ってくるみつを

横目に、冷えきった手を 

吐息で温めつつ、振り返る。


「あぁ、みつさん。


どうしたんです?そんなに

急いで一・・・」


「ふ、副長が、先生を


探して・・・」


みつは、呼吸を整えながら  

用件を伝える。


すると、先生は再び、  

作りかけの雪だるまに  

眼をやり、


「一・・・・・。


ちょっと、待ってて


もらってください。


雪だるまがもう少しで


完成す一・・・」


「一・・・・・っ」


「・・・総司・・」


その時だった。


いつのまに、やってきた 

のか、みつへ向く先生の 

背から、鬼副長らしい  

低く、冷たい声が


響いたのは一・・・。


そして、副長は先生に  

スッと近付き、


「一・・・抜け・・」


「えっ一・・・」


 一・・・殺気・・・一


「一・・・・・っ!?!」

ガッ!!!


先生が振り返る、隙も  

与えず、いきなり、   

腰にさしていた小刀を  

先生に振り下ろした!


「一・・・っ、副長!?」

「下がっていなさいっ!」

先生は、振り返りざま  

大刀を腰から、抜き取り 

副長の刀を鉄鞘で   


受けとめ、みつへ叫ぶ。


「一・・・・・」フッ


一体、何が起こるのだろう

と、手に汗握り、この場を

見つめていたみつと子供達

だったが、その頃には  

もう、副長は刀を下ろし 

先生もほほ笑みを浮かべていた。


はっ・・・?と、ばかりに

みつと子供たちから力が 

抜けてゆく。


「一・・・けっ、


腕はにぶってないと見える」


「もっ、危ないじゃ


ないですかぁっ!


こんなところで、腕試し


なんてっ」


「何言ってやがるっ。


最近、ろくに素振りも


しねぇで、ガキと遊んで


やがるくせしやがって」


「やだなぁ、そんなこと


くらいで、こんな腕試し


されたんじゃ、命がいくつ

あったってたりゃしない」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ