短篇集

□一周年記念・短篇
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よせっ!と、子供は最初、

恥ずかしかったのか、  

嫌がり、声を上げたが  

もう少しだからと、   

惣次郎が言い宥め、治療が

おわる頃には、二人は  

大木の下に腰を下ろし  

話ができるまでに仲良く 

なっていた。


「あの、この怪我は


どうしたの?転んだの?」

「・・・近くの子達と


相撲をした時に


飛ばされて、それで・・」

「えっ、相撲!?」


惣次郎は、眼を丸くした。

相撲をするには、あまりに

体が小さい。


すぐ、弾き飛ばされて  

怪我をしても当たり前だ。

(私より、年下に見える


のに、すごいなぁ・・・)

しかし、惣次郎は小さい体

を苦ともせず、争ったのだ

ろう、その子供を馬鹿に 

するどころか、尊敬していた。


剣術を始める前の、吉次達

に泣かされていた頃が


恥ずかしく思えたのだ。


きっと、こんなに


小さいのに、自分よりも


大きな子供にも立ち


向かっていったのだろう。

一・・・強いなぁ・・・一

と、惣次郎が物思いに  

ふけっていると、


「一・・・る?」


「え・・・・・?」


「・・・また、会える?」

隣に腰かける子供が、  

か細い声でつぶやいていた。


すると惣次郎はその問いに

「一・・・・・そうだね


また、会おうね」


と、微笑んで返した。


「一・・・・・っ」


そして、今度は惣次郎が 

子供に尋ねる。


「ねぇ、君の名前は


何ていうの?


私は、沖田惣次郎」


君は?と、問い掛ける  

惣次郎に、子供は


「・・・っ、み一・・・」

口を開きかける。


「え一・・・?」


その時だった。


「惣次郎っ?」


「一・・・・・っ」


聞き覚えのある声が、  

静かな土手に響き渡った。

驚いて、振り返ると   

「歳三さんっ?」


「何だお前、こんなとこで

何してんだ?」


と、現われたのは


石田散薬と書かれた 


荷物を背負った歳三。


どうやら、諸国を巡った 

帰りらしい。


近づいてくる歳三に、  

惣次郎は


「今っ、新しい友人と


話をしていたんです」


と言って、隣を見た。


しかし一・・・。


「あれ一・・・?」


すぐ隣に先程まで座って 

いた、あの子供の姿は  

すでになかった。


聞きそびれた名と、


あの柿を、惣次郎に   

残して一・・・・・。




後。


「・・・ったく、情けねぇ

狐に騙されるたぁ・・・」

「違いますよっ、ほら、


柿だってここに一・・っ」

「だから、なんで春に


柿なんだよ・・・」


というような会話が、  

何度も何度も、二人の間で

交わされることとなった。

そして、数年後。


再び、出会えたことを  

二人はまだ、


知る由もない一・・・。

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