風姿華伝書

□華伝書13
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ダンッ!!!


一瞬のうちに、静まり  

返った道場に、雷かと思う

の、大音響が響きわたった。


それは、村田ではなく  

歳三が、飛び出していった

時のものだった。


「あっ!!?」


思わず、門人たちが、声を上げる。


皆が大きな音に驚き   

二人の姿を、見たとき  

すでに、二人は組み合った後だった。


いや。


実は、そうではなかった。

歳三がいきなり、


ものすごい速さで、   

村田へ突っ込み、「面」を

とろうとしてきた、


こちらが、正しい解説である。


あまりの速さ故、皆の


目では感じとれなかったのだろう。


とにかく。


師範代(皆の指導者)と


して、皆から尊敬されて


いる、村田が、名もない 

歳三に、押されているのは確かであった。


「やぁっ!!!」ダダッ 

「おぉぉっ!!!」ダンッ

かん高い二人の声が、一層

強くなり、静かな道場


一杯に、包み込んでいく。

もはや、誰一人身動きさえ

せず、その試合に見入っていた。


なんと、言ったらいいのだろうか。


まるで、その試合に   

吸い込まれるような感覚 

とでも、表現すれば適当だろう。


「あの薬屋すげぇ・・」


「でも、やっぱり師範代の

ほうが、うわてだなっ」


「情けない・・・」


と、いきなり門人たちの


話に、二人を眺める


道場主が口をはさんだ。


「この試合。薬屋の方が上だ。


村田のやつ、すっかり、


薬屋の剣に、振り回され
おって・・・」


「―・・・?」


門人たちには、道場主の 

言葉の意味が、よく


わからなかったらしい。


いつもの師範代の様にしか

見えなかったからである。
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