風姿華伝書

□華伝書10
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〈その頃、みつは・・〉

「―・・・っ」タタッ


原田さんの予想通り、


先生のそばに、


いることすらできず走っていた。


次から次へと、


あふれてくる涙を、


必死に隠しながら―・・。

ただ、悔しかった―・・

 自分には、できない              
 話すということ―・・


それが普通にできない自分は、


この場にいられない―・・

そう感じ、その場から


逃げ出したのである。


ただ、逃げているだけの


ようにも、思える。


しかし、今のみつにとって

は、これだけで精一杯だった。


 あの場所から・・


  二人から、


離れなければ、悔しさに


押しつぶされそうだったから。


みつは、泣き顔を隠しながら、


隊士たちの間を駆け抜け、

ひとけの少ない井戸へと向かう。


(あそこでなら、思いっき

り、泣ける―・・・)


そう、思いながら・・。






「―・・・っ!」

と、みつは、その井戸に


着いたとたん急に、


立ち止まってしまった。


足音をしのばせながら、


ゆっくり、近づいていく。

井戸のそばの縁側に、


腰をかけ、下を向いて、


肩をふるわせている、


  その人は―・・


「―・・?え、みっちゃんっ!?」


いつもの元気で、明るい


人柄とは、かけ離れ、


目を真っ赤にして大粒の


涙をながす、優・・。


みつは、びっくりしながら

も、優の横に座る。


「どうしたの?そんなに目

真っ赤にして・・・」


と、優はみつに、問う。


みつは、それはこっちの


セリフだと、言いたげな


顔を、してみせた。


その顔に、優は少し、微笑む。


どうやら、聞かずとも、


お互い、同じ理由で


涙をながしていたらしい。

と、急に顔を、ゆがませた

かと思うと、次の瞬間には

二人で抱き合いながら、 

泣き始めていた―・・・。

「・・みっちゃんー」


「…………っ」


そんな二人を、


きれいな夕日が包み込む。

それはまるで二人の思いを

受けとめているかのようであった・・。


一人は、        

『歳三のバカやろ……』


そして、もう一人は   

『沖田先生のバカ――』


と、泣く二人を―・・・。
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