風姿華伝書

□華伝書8
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「おいっ。宗次郎っ、


ちょっと来い」


「え、な、何ですかっ?」

いきなり、宗次郎のうしろ

に現れたかと思うと、


稽古着をつかみ、無理矢理

に、引きずりだした。


「どこ行くんですかっ!?ちよっと」


どんどん引きずられていく宗次郎。


あまりの突然さに、何の


抵抗もできぬまま、連れて

いかれてしまった―・・。





(―・・・ん・・?)


その現場を偶然目にした、一人の男。


長い髪をくくり、袴を


はかず、着流しの着物姿。

手には、家伝薬である


石田散薬のマークが入った

薬箱を持っている。


一見ただの薬売りにしか、見えない。


しかし、その薬箱の中には

しっかりと、剣術用具一式

が入っている。


薬を売り歩きながら、


あちこちの道場で、試合っ

てもらうための、ものであった。


もちろん、土方歳三、


その人である―・・・。


いつもは、女遊びばかり


しているようでいて、実は

ちゃんと剣術の鍛練も、しているのだ。


なのにあえて、そんな姿を

皆に見せないのは、


この若者の性格なのだろう。


  照れ屋なのだ―・・。

そんな歳三が久しぶりに、

試衛館の門をくぐろうと


した時だった。


吉次らに引きずられ、連れ

ていかれている宗次郎を、

見かけたのは―・・・。


一瞬、仲が良くなったのか?


とも、思ったが、どうやら

違うらしい。


歳三は物陰に隠れながら、

その跡を追ってみた。


(どこ行く気だ?あいつら・・)






数分後、吉次らの跡を追い

歳三が辿り着いたのは・・。


道場からそんなに遠くない

広い土手―・・。


太陽の光りが反射し、川の

水がキラキラと輝き、


とてもきれいだ。


土手には青々しい草が


茂っており、ザワッと風にゆれている。


そんな中、ひとけの少ない

この場で吉次は、宗次郎を

つかんでいた手を離した。

ドテッと尻餅をつきながら

も、立ち上がる宗次郎。


「どうしたんですか?


ここで一体何を―・・・」

すると、吉次らは真剣な目

をして、宗次郎をにらむ。

 そして―・・・


「おれと、勝負しろ、
   宗次郎―・・・」
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