風姿華伝書

□華伝書7
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「―・・っ。う・・・」 

先生は一層苦しそうに、


もがきだした。


相当な激痛が、体中を


おそっているらしい。


どうやら、さっきまでの


鬼の心がまた出てきたようだ。


つまり、先生には


   二つの人格    

 鬼の心と、人の心・・が

存在するらしい―・・。


先生はドタッと、地に


ひざをつき、うずくまった。


「―・・・っ」


みつは先生にかけよる。


 ドタンッ!!


そして、ついにはその場に

倒れてしまった。


  沖田先生っ!!


みつはびっくりして、


その身を揺さ振るが


「―――・・・・・」


ピクリともしない、先生。





「娘さんっ!無事でしたかっ!?」


と、そこへ駆け込んで


きたのは明光寺の和尚。 

左手を斬られたらしく、


右手を添えながらに走ってきた。


どうやら、殺されはしなかったらしい。


すると、和尚は


「とりあえず、私の寺へ、

総司を連れて行きましょう」


と、みつへ声を掛け、


先生を抱き起こし、


寺へとむかっていった。 

みつも、和尚を手伝いなが

ら、一緒に寺へと歩いていく。






〈明光寺の一室にて〉


その後。


みつと和尚は、先生を


寺まで運び、何とか、


布団に寝かせた。


先生は相当つかれているのか。


倒れてから、しばらくたっ

た今も、ぐっすりと眠った

ままであった。


みつは、和尚の傷の手当て

をしながら、何度も先生に

目をむける。


日はとっくに登り、昼近く

になってきていた。


しかし、いっこうに先生は

目を覚まさない。


眠ったままの先生へ目を


むけるたび、みつの不安は

つのっていく。


「そんなに心配なさらなく

ても、大丈夫ですよ。


じきに目覚めますから」


先生を心配するみつを


みかねてか、和尚が声をかける。


「・・総司は、あの時


あなたを斬ろうと思えば、

斬れたんですね?」


みつは突然の言葉に、


驚きながらも、首をたてにふった。


確かに。


あの時、腰がぬけ、動こう

にも動けなかったみつを


斬ることくらい、先生には

たやすかったろう。


「―・・しかし、総司は


あなたを斬らなかった。


いや、斬れなかったんでしょうな」


和尚は、先生がみつを


助けたことを喜び、笑みをうかべた。


わからないのは、みつの方である。


一体なぜ、沖田先生の中に

    人と鬼


二つの人格が存在しているのか―・・・?






「まだ、総司が目を覚ます

まで、間がありそうですし。


ここまで世話をしてくれた

あなたに、何も話さない


わけにはいきませんね」


和尚は先生の方を振り返る。


「いや、あなたには、ぜひ

聞いてほしい。そして、


わかってやってほしいんです。


総司が、今までを


どう生きてきたのか・・」

みつはその言葉に、真剣な

目をむけ、うなずく。


それを見て、和尚は語りだした。


「それは、総司がまだ十才

を過ぎたころだったと思います―・・・」
 

 ゆっくりと、そして、    力強く―・・・
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