風姿華伝書

□華伝書6
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〈翌日・早朝〉     

屯所の門前は、数日前から

落ち葉が舞い始め、色とり

どりの葉で、道がうめつくされていた。


ザッ、ザッ、ザッ、・・ 

そんな、まだ朝もやが


消えない早朝に、門を出る

沖田先生の姿が・・・。


「―・・・」      

肌寒い中、上着も羽織らす

大小の刀を腰に差している。


そして、まだ人通りも


まばらな京都の街を、


スタスタと、歩いていった。






たどり着いたのは―・・。

京都の街を少し外れた、


丘の上にたたずむ、   

   〈明光寺〉


という、竹林に囲まれた、小さな禅寺。      

先生は寺の門前で、歩みを止める。


優が言っていた通り、


どうやらここへ、向かっていたらしい。


一体、先生は何の目的で


この小さな禅寺へ、やって

きたのか―・・・。






〈ところで、みつは・・〉

(ここは・・一体?)


明光寺の手前、竹林で迷っていた。


ここまで付いてきたという

ことは、少なからず先生を

信じる気持ちが、あることになるが・・・。    

実際、みつ自身よくわかっていなかった。


ただ、知りたかったのである。


いつもニコニコと微笑む、

先生にどんな過去が、あるのか―・・・。     

「おや、宗次郎?」   

「あ、玄広和尚っ」


先生が門前でたたずんで


いると、奥から玄広と


呼ばれた和尚が出てきた。

手にホウキを持ち、微笑んでいる。


先生は少し顔を赤くして、

頭を下げた。


「和尚。私、総司と名を


改めたんですよ。宗次郎は

ちょっと・・」


宗次郎というのは沖田先生

の幼少期の名前。


十九歳の時に、元服


(成人式)し、宗次郎から

総司に改名したのだった。

「総司・・。良い名ですな」          


すると、和尚は軽く笑って答える。        

「あの、それで今日は・・」           

「・・わかっていますよ。

さ、上がりなさい」


と急に、和尚の顔つきが、変わった。


そして、そのまま寺の中へ

入っていってしまった。
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