風姿華伝書

□華伝書5
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〈八木家・玄関奥の座敷〉

この部屋には、土方副長と

沖田先生がむかっていた。

顔を黒い布で覆っている。

もし万が一、誰か、他の


者に姿を見られても、顔を

見られないための、対処だった。


   スパンッ!


勢いよく、障子が開かれる。


まず、最初にねらうは平山五郎。         

商家への金の無心などをし

芹沢局長と、深く関わっていた。


「―・・・」スラッ   

土方副長が刀を抜く。  

キラリと、真剣が、月夜に

照らされる中、平山は泥酔していた。


ぐぉ―っと、いびきを


かいて、眠っている。  

「―・・・っ!」ザンッ 

そして、土方副長の剣が、

勢いよく振り下ろされ、


辺りは、血に染まった。


平山五郎暗殺―・・・。 

一見、汚い策のように


思えるかも、しれない。 

しかし、酒を飲まし、


酔わした上で斬る、という

やり方は、当時よく使われていた。


真っ向から、むかって


いったのでは、勝敗が


どちらにむくか、予想


できないからである。


よって、飲ませて斬る、


という方法は、確実に相手

をしとめるための、安全策だった。


だからとはいえ、酒とは
恐ろしい。


何十年にも渡って積み上げ

てきたものも、命も、


一瞬にして散らしてしまうのだから。


この日。        

近藤局長らの、わなに


かかった芹沢一派は、


案の上、スキだらけだった。


タタッと二人は、走る。


平山を暗殺した後、次に


ねらうは一派の中心人物。

  芹沢 鴨局長―・・。

スッと、戸が開けられ、


部屋をのぞくと、芹沢局長

とお梅が、眠りについて


いるのが目に入った。


  スラッ


今度は、沖田先生が刀を抜く。


真っ暗なその部屋に、


先生の、鬼のような目が、

輝いていた―・・・。
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