風姿華伝書

□華伝書4
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「あれ?みつさんっ?」 

沖田先生は道場を出ると、

外に立っていたみつに


気付き、走りよってきた。

「―・・・」スッ    

みつは、軽く頭を下げる。

すると、道場からワラワラ

と隊士たちが、二人を


取り囲んだ。


「沖田先生、この子が


うわさの元芸者さんですか?」


「あれ、私、皆さんに


言いましたっけ?」   

「聞かなくたって、


皆知ってますよ。うわさに

なってますから」


みつは首をひねる。   

先生は嫌な予感が、していた。          

「う、うわさって・・・。

まさか、それ言いだした


のは・・・」


「原田先生ですよ」


「―・・・っ」やっぱり


一人の隊士が、笑って答える。


いや、一人だけではない。

皆、微笑んでいた。


「おみつさんて、言うんですねっ」        

「いや、たいした、


べっぴんさんだっ」


「沖田先生じゃなかったら

俺たちの方に・・・」


隊士たちは、先生を


そっちのけ、みつの話で


盛り上がり始める。


みつは、何も答えられない

が故に、困り果てた。


どうしていいか、わからない。


そして、


「確か、声がでないんでしたよね」        

と、一人の隊士が言った


ときだった。


「もうっ、みつさんの話ば

それまでっ!そんなに元気

があるなら、剣術指南


続けますよっ!」


先生が隊士たちの中にわって入る。        

すると、隊士たちは我先に

といわんばかりに、ササッ

と部屋へ戻っていった。


なんだか、助けられて


しまったようだ。


ありがとうございます、と

頭を下げようとする、


みつに、        

「あっ、みつさん―・・」

サッと先生が手をのばす。

「―・・・っ!」タタッ


「え―・・・?」


すると、急にみつは走り


だし、その場から一目散に

逃げていってしまった。

そして、ポツンと一人、


残された先生は一言、  

(・・・?蝶々とまってた

のに・・・?)


と、不思議に思うのであった―・・・。                  
ちがう・・ちがう―・・。

みつは、走りながら、


何度も何度も、そう繰り


返しつぶやく。


今まで生きてきて、先程の

ように、声をかけられる


ことは、何度もあった。


仕事柄、何回も―・・・。

なのに、なぜ―・・・? 

さっき、先生に手を


のばされた時、みつの


心臓は、はりさけそうだった。


他の人とは、わけが違う、

何かを、先生に感じていた。


「―・・・っ」     

これが、属に言う、


    〈恋心〉    

なのだと、気付くには、


みつはまだ幼い―・・・。
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