風姿華伝書

□華伝書3
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〈朝・朝食〉      

やっと、日が昇り、屯所内

にも光が差し込む中、


みつは大忙しだった。  

食事の準備に配膳など、


次から次へと仕事が増えていく。


しかし、誰一人、みつの


ように疲れきった様子は
みられない。


皆、たいした体力の持ち主

に違いないだろう。


毎日、朝五時前には起きて

朝食の準備。      

それが一段落したかと思う

と、次には配膳や後片付げ

が待っているのだ。


「こっち、ご飯おかわりっ」


今、みつはお櫃を抱え、


食事をする隊士たちの間を

回っている。


早起きすることには慣れて

いたが、料理は苦手で、


もう、ヘトヘトしていた。

一・・・そこへ、      

「俺らにも、おかわり


くれよ、おみっちゃんっ」

聞き慣れない名に、一瞬


己が呼ばれたとわからな


かった、みつ。


恐る恐る顔をあげると、 

「へーぇ、あんたが


新入りの、みつちゃんかい?」


「あの土方さんを、黙ら


せたんだってねっ」   

「まさか、総司がなぁ・・」


それぞれ別のことを話す、

三人組の姿が―・・・。


みつは、どう対処していい

かわからず、困った。


すると、三人組の横から


聞き慣れた声が、    

「もー、違うんですってばぁっ。


これには、深い訳があって」


声の主は、沖田先生。  

その声に、みつはホッと


胸をなでおろす。


やはり、知っている人が


いると、安心するのだ。


「みつさん。この方たちは

左から原田さん、藤堂さん

永倉さんっていって、私に

とっては、兄弟みたいな人

たちなんです。三人とも


すっごく、仲がいいんですよ」


先生は、笑って三人を紹介する。


みつは、よろしくお願い


します、といった感じで


頭を下げた。


「ちっ、総司に先言われ


ちまった。俺は原田左之助。


浪士組で副長助勤をやってんだ」         

「同じく、副長助勤の藤堂平助」         

「俺も同じく、副長助勤の永倉新八」


それぞれが自己の紹介を


終えると、急に原田さんが

みつの手をとる。    

「総司に飽きたらいつでも

いってくれよ。大歓迎だからなっ」


なんのことだか、わからない、みつ。       

すると、原田さんは


ニッコリ笑って、    

「今、嫁さん募集してる


とこなんだ。よろしく頼むぜ」


「―・・・っ!?」


びっくり仰天する、みつ。

 よ、嫁って・・・


「まーた、原田さん。


そんなこといってぇ。もう

街中の娘さんに、一回は


言ってるよ」(籐)   

「ばっかやろー。こういう

もんは、言うだけ言って


みるもんなんだよっ」


「あはは、原田さんらしいやっ」(沖)


四人が、話に盛り上がる中

みつは突然走り出し、


その場から逃げ出していった。


お嫁だなんて、とんでもないっ!         

きっと、そう感じたに、


ちがいないだろう。


ご飯を入れておく、


おひつを、置き忘れたまま

いってしまったのだから。

「あーぁ、逃げちゃったょ

みっちゃん。また、


ふられたね、原田さん」


また、ということは今まで

にも前例があったのか? 

と、疑いたくなるが、


そんなことでは挫けないの

が、原田さんのいいところ。 


「なーに、今まで何人


声かけたと思ってんだよっ。


大丈夫だって」


と、のんきに鼻歌まで歌いだす。


先生は、そんな三人の


やりとりを聞き、ろくに


ご飯も食べれない程、


腹をかかえて、笑った。


「は、原田さんらしーやっ」           

「まったくだ」


先生の言葉の後、永倉さん

が答えると、それまで


耐えていた他の隊士たちも

ドッと笑いだす。


一気に、食堂ともいえる


この部屋が、笑いに包まれ

皆、大いに笑い合うのだった。
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