風姿華伝書

□風姿華伝
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………………江戸時代。


安土・桃山に続く、徳川家康が


関ケ原の戦いに勝利し、作り上げた時代。


その250年余りに渡る長い時の


中で、人々は富み武士道は栄えていった。






………そして、文久三年。


ある男たちが、幕府のため


京のために、江戸から京へ上洛してきていた。


「京都守護職・松平肥後守


        御預・壬生浪士組」


その中には、近藤勇・芹沢鴨を


始め、土方歳三・山南敬助・


沖田総司らの姿がー・・・。


後、幕末最強の剣客集団、   


      『新選組』 


と、呼ばれることになる男達である。             





    ベン!ベベン!ベン!


京、祇園。


祇園といえば、島原・吉原に続く


有名な遊里の一つである。


今宵もその大通り


(メインストリート)にはたくさんの


男女が入り交じっていた。       

お座敷では、三味線の音色が響き、


酒をつがれる男達がその音色に


聞き入っている。       


………と、その中の男が一言。        

「いやぁ、とっても綺麗な音色ですねぇ」     


と、いい、それまで聞き入っていた


者たちの会話も弾けた。      


「この芸者の三味線は、この辺りでは


有名なんですよ、先生」       

「へーえ、そうなんですか?


私は遊里に興味がないものです


から、初めてしりましたよ」    


先生、と呼ばれたこの男。


その容姿は、先生と呼ばれるほど


歳をとっているようには見えない。


長い髪をくくり、小刀を腰に


さっきからずっと、ニコニコと微笑んでいる。    


「時に先生。いつもなら遊里になど


ついてきてはくださらないのに、なぜ


今宵は誘いに応じてくださったんです?


いや……。我々にと、お聞きした方が
よろしいか」           


ピクッと周りの者たちに緊張が走る。      


次に、先生が何を言うかによって、


どうなるか想像がつかない状態だった。  


「だって、あなた方と飲む最後の


機会だったんですもん。


楽しみたいじゃないですか………」    

その言葉にサッと、一同が半立ちに


なって、小刀の鯉口をきる。          

「どういう、意味……ですか?


沖田総司先生………………」


と、一同の中の一人が口を開くと、


先生は酒を口にもっていきつつ、  


「だって、知っちゃったんですもん。


あなた方の正体が―・・・・・・・」


一気に、飲み干した。


途端。


バンッ!!と部屋の戸が開かれ、


15を超える隊士達が一気に座敷へと


雪崩れ込んできた。       


「キャー!!」と店の女達の叫びが轟く。 


「長州(現山口県)の間者(スパイ)だってことにね」


先生は笑って、酒をもう一口飲みこむ。        


「くそ、謀ってやがったのかっ!!」


男の一人が先生に向かって

刀を振り上げる。


先生はそれを寸前でかわす

と、刀を抜き、男の刀と
交差させた。      

「僭越ながら、あなたは


刀の振りが遅いんですよ」

「ぐっ!!」      

先生の殺気だった目に、


一同は逃げ気になる。


そして、周りの隊士たちを

はねのけると、芸者の後ろ

にある、窓へ走った。  

「どけっ!!そこなる芸者!!!」        

男は芸者に刀を向け、窓べと突っ走る。      

それを先生は追いかけ、走る!!         

「皆さんは他の間者を


追ってくださいっ。


私はこちらを追いますっ!!」          







「っ、目を、閉じなさいっ!!!」      


「えっ―・・・!?」  

先生はそう警告すると、


男の背を斬った。


ビシャッ!と、辺りが


真っ赤に染まる。    

普通このような町人の


真正面で人を斬れば、


どのようなことになるか


存じていた、先生。   

だが、仕方なかったのだ。

斬らなければ、この芸者は

命を落とすことになったであろう。        

京の人々を守ることが、


仕事である浪士組にとって

それは許しがたいことであった。


しかし、この先生の判断に

より、芸者の体に異変が
起きていた。      

「―・・・っ」     

ドクン、ドクン、と心臓が高鳴る。


芸者は何が起こったのか


検討もつかなかった。  

顔や髪、着物は血に染まり

赤色を発している。


目をおっぴろげ、必死に


何かを探そうとするが、


それさえも、わからなかった。


プツンッと何かが、芸者の

中で切れ、その瞬間、体が

血の海に沈んでいった。 

ドシャッと音がして、


捕まえた間者の数を数えて

いた先生が、振り返る。 

「あっ!大丈夫ですかっ!?」          

その声は虚しく、店に響く

のみであった―・・・。
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