風姿華伝書

□華伝書99
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    <早朝>


祇園、お救い小屋(寺)の


台所にて。


「一・・・・・熱っ」


「大丈夫?おみつはん」


「はい。大事ないです」


昨夜の深夜に祇園を襲った

大火事で避難や負傷をした

人々が助けを求め集う、


お救い小屋となった寺の


台所に、手伝いとして


やってきた数人の婦人方と

共に、朝食の<おにぎり>を

握る、みつの姿があった。

もちろん、被災者方へ配る

ためのものである。


みつはせっせと寺から


支給されたお米で炊いた


ご飯を握りつつ、辺りへ


瞳を凝らしてみた。


台所の土間を抜け、寺の


広い居間には、重症を


負った被災者達が寝かされ

寺の本堂内には、軽症の


人々や災害孤児達が大勢


眠れぬまま、朝を迎えていた。


そして昨夜、沖田先生に


助け出されたみつの


師匠はというと一・・・。

怪我人の治療が人心地


ついた後は、孤児となった

子供達などを集めては


まだまだ衰えることを


知らない自慢の喉で京に


古くから伝わる長唄を


口ずさんでは災害で


傷ついた人々の心を癒していた。


「一・・・・・・・・」


ふと、ご飯を握るみつの


手がその動きを止める。


一・・皆、頑張っている一

その思いが胸の中を占めていた。


突然、舞い上がった炎に


より、祇園はしばらく


営業もできぬ程の打撃を


受け、周りの家々も壊滅的

な被害を受けている。


一・・・とはいえ、


師匠の長唄に耳を傾ける


京の人々の瞳に何とも


いえない力強さを感じたのである。


それは一・・・平安の世


京に都が定められてから


幾度の戦乱や乱世を渡り


歩いてきた京の人々に


根付いた<復興>へ向かう


<力強さ>とでも言えば


いいのであろうか。


何度、都を焼かれても


必ず都を復興させる力・・。


一・・・諦めないこと一


(一・・・私も・・・・・)

もう、逃げ出さずに・・・

伝えなければ一・・・・。

一・・・<あの日>起こった

私の・・<罪>と<真実>を一





 沖田先生・あの方に
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