風姿華伝書

□華伝書97
1ページ/7ページ

一<祇園>が、燃えている一

「一・・・・・・・っ!」

肩を揺らして叫ぶ鉄之助の

<火事>という言葉にみつの

顔から平常心が崩れ去っていった。


顔つきが強ばり、声も出せない。


訪ねてきた鉄之助に、事の

状況を聞いている先生の


後ろで、小さな肩を震わせ

力の抜けた足で立っている

だけで精一杯であった。


一火事・・炎・・・臭い一

『っ、父上ーっ!!!!』

轟音を響かせ焼け落ちる


家、高々と上がった


真っ赤な炎・・・・そして

人の一・・・焼ける臭い。

すべてが走馬灯のように


次々と頭に浮かんでは


消えていく。


一・・・<祇園>・・・・一

(っ、御師匠一・・っ!!)

   ドダタッ!!!


気付いた時には、駆け出していた。


「っ、どこいくんです!?

待ちなさいっ!」


挿し絵です。


途端に、驚いた先生が


その腕を掴む。


「っ、でも!師匠が!!」

みつは振り返り様、叫んだ。


その揺れる瞳には薄らと


雫が浮かんでいる。


「行かせてくださいっ!!

もう・・・もう、人が


命を失うのは嫌です!!!」


一・・・もう、嫌だ!!!

人が命を失うのも、その


様子をただ、見つめるしか

ない己自身も・・っ!!一

父上、母上、兄弟達、


・・・福屋のお爺ちゃん。

皆一・・・みんな・・っ。

「・・・落ち着きなさい」

「一・・・・・・っ!」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ