風姿華伝書

□華伝書96
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一・・・同刻。


  どうしよう・・・


 どうしたら一・・・・


「一・・・・・・・・っ」

新屯所である西本願寺から

堀川通りをのぼり五条通を

少し横に入った辺りに建つ

こじんまりとした一軒家の

庭先に、洗濯をするみつの

姿があった。


そう、この、お世辞にも


屋敷とは言えない小さな


一軒家こそ、沖田先生が


近藤局長から与えられた


休息所(妾宅)なのである。

本当なら、池田屋事変から

後、名を馳せた新選組の


一番隊組長の休息所として

もう少し大きな屋敷を


与えられてもよさそうな


ものであるが、もしも


急務があった際、すぐに


駆け付けれる場所をと考え

られた末のことであった。

余談であるが、近藤局長が

後に囲うこととなる


大坂新町の深雪太夫も


この屯所の近くである


醒ケ井という場所に


建てられていた。


さて、話は戻り一・・・。

「一・・・・・」フゥッ


本題は、みつである。


小半時(約30分)前から


天気が良いからといって


はりきり、小さな庭先に


作られた井戸から水をくみ

セッセと洗濯を始めたので

ある、が一・・・・・・。

ものの数分で、その手が


ピタリと止まって


しまったのである。


相変わらず、空は三月の


暖かさを春風に流していた

し、周りで春になってゆく

喜びを歌う小鳥達の囀りも

滞りなく、辺りを春色に


染め上げている。


何も、変わった場などない

日常の風景。


一・・・しかし、その


風景を裏切るかのように


みつの胸の内は粉雪どころ

か、吹雪舞う氷河期のよう

に凍り付き、冷めきった


ものであった。


先程まで、暖かい春を


保っていた胸の内が今では

血のしたたるかのように


痛み・傷つき、吹雪に傷口

が当たる度、きしんだ。


一・・・痛い・・痛い一


先生の長着を洗濯板に


乗せたまま、再びため息が

零れる。


こうでもしなければ、


次々と沸き上がる内々の


痛みがみつ自身を食い付く

してしまいそうだったのである。


一・・・その<理由>は・・。


  ・・・っ・・・


『一・・・夕月・・・・』

   =ユヅキ=


 嫌だ・・っ、厭っ!!


一助けてっ、誰か・・っ!

・・・・〓誰か〓・・・一





「一・・・・・・っ」


ふと、見上げた青空が歪んだ。


「・・・みつちゃん?」


「っ、え一・・・・っ?」
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