捧げモノ

□皇守揺葉様へ!
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一1858年・春一


これは、みつと沖田先生が

出会うずっと、ずっと前の

お話一・・・。




「歳三さーんっ」


「ついて来んじゃねぇって

いってんだろーがっ!」


1858年・安政五年・春。


ウグイスの声が、柔らかな

春の訪れを告げる中、  

将軍のお膝元と呼ばれた 

江戸の町を歩く、二人の 

男達の姿があった。


一人は、長い髪をくくり、

一人前に木刀を


腰にさしており、 


もう一人は、まだ背が低く

あどけなさが残っていて、

10〜12、13才くらいに


見受けられる。


と、ここで大きい方の男が

自分の跡をおもしろそうに

ついてくる少年の頭に  

ゲンコツを見舞いした。


ゴツンッと、鈍い音が  

辺りに響きわたる。


少年は、痛そうに頭を抱えた。


「いたっ。


何するんですかぁっ」


「おめぇが、きかねぇから

だっ。宗次郎っ!」


「だって、気になってたん

ですよぉ。歳三さんが、


昼間、稽古も行商も


しないで、何をやってるのか。


今日は、稽古もないし、


いいじゃないですかぁ

「よくねぇっ!」


歳三・・・に宗次郎・・。

もう、おわかりだろうが 

土方さんと沖田先生である。


後に、京へ上り、新選組 

として、恐れられる彼らも

この時まだ、二十三と十四。


ほんの数年後、浪士組  

として京へゆくなど、  

考えもしていなかっただろう。


ただ、いつか武士に   

なりたい、将軍様のお役に

たちたい、それだけを  

漠然と願い続ける、若造であった。


と、急に歳三の視線が止まる。


その視線の先には、悠長な

淡い浅葱色の着物に身を 

包み、髪を高島田に   

結上げた武家の出らしい 

娘の姿があった。


急ぎの用でもあるのか、 

いそいそと、二人のまえを

通り過ぎてゆく。


と、その刹那。


薫きしめたと見える


香の薫りが、フワリと  

ほのかに二人を包み込んだ。


「一・・・・・」


すると、歳三は先程まで


怒っていたのが嘘のように

黙りこみ、


「宗次郎、やっぱりおまぇ

先に戻れ一・・・」


とだけ、つぶやきサッサと

歩いていってしまった。


しかし、好奇心旺盛な  

十代を生きる宗次郎が  

それくらいで、すごすごと

歳三の秘密解明を諦める 

わけがない。


ずっと、わからないでいたのだ。         

自分達が、稽古に勤しむ 

昼間、いつも道場を出て 

ゆく、歳三が一体何を  

しているのか一・・・と。

故に、帰れるわけもなく


「一・・・・・っ」


可愛い顔で、ニコッと  

微笑みを浮かべると


そっと歳三の跡を


追っていった一・・・。
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